兵庫慎司さんの文庫解説

 北上次郎『勝手に文庫解説』(集英社文庫/15年9月)の巻末に「スペシャル座談会」として北上次郎大森望池上冬樹杉江松恋という書評家4名が「文庫解説作品 自薦ベスト3」を挙げています。

 北上次郎さんの自薦ベスト3のうち1作は宮部みゆき『魔女はささやく』(新潮文庫/93年1月)でした。

 挙げた理由として北上さんは以下のように語っています。

 

  初めて褒められた解説だから。新保(博久)教授と、音楽雑誌「ロッキング・オン」では、音楽を語るのは難しい、この場所でどうしてドンと太鼓の音が鳴る必要があるのかを言葉にするのは難しいが、この書評はそれに成功していると。音楽系の記者が書いてくれて、びっくりした。自分ではよくわからないんだけど(笑)嬉しかった!

 

 このエピソードについては、14年6月16日付で「WEB本の雑誌」に載った「目黒孝二の何もない日々」に詳しく書かれています。

 

 それによると、書評の掲載された音楽雑誌は(「ロッキング・オン」ではなくて)「ROCKIN'ON JAPAN」の97年8月号だったそうです(表紙はコーネリアス)。書いたのは北上さんと大森さんの書評対談が掲載された『SIGHT』編集者で対談の司会をしていた兵庫慎司さん。

 

 『SIGHT』で書評対談の司会の他に、著者インタビューを行っていた兵庫さんは、その縁で文庫の解説を寄稿しています。宮部みゆき『小暮写眞館』と津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー』の2作に寄稿していることを確認しています。

 単行本・文庫の発行と、『SIGHT』誌にインタビュー掲載の時系列をまとめました。

 

 津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー』

  単行本08年6月 → 『SIGHT』40号(09年5月)→ 文庫11年6月

 

 宮部みゆき『小暮写眞館』

  単行本10年5月 →『SIGHT』45号(10年9月)→ 文庫13年10月

 

 津村記久子さんは芥川賞受賞を機としたものなので、単行本の刊行からは間があります。もともと『ROCKIN'ON JAPAN』誌の読者であった津村さんがインタビューを受け知己を得、音楽が重要な小説なので兵庫さんに文庫解説を依頼した、という流れがあったのでしょう。

 また、宮部みゆきさんの『小暮写眞館』の文庫解説では『SIGHT』誌でのインタビューの発言が引用されていました。

 

 『ROCKIN'ON JAPAN』誌の部数は知らないけれど、『小暮写眞館』文庫解説が最も読まれた兵庫慎司さんの解説ではないでしょうか?

 

 と書いたところで、平井堅のベストアルバム『歌バカ』のライナーノーツであると兵庫さん本人がRO69のブログで書いていたのを思い出しました。「自分の書いたものが、200万部刷られて売られたことがある」とありました。

 

 細かすぎることを書いてしまいました。