大友啓史『ミュージアム』と巴亮介『ミュージアム』
巴亮介『ミュージアム』を原作とした大友啓史『ミュージアム』を鑑賞しました。その感想です。
マンガや小説など原作があるものを映画化する場合、何らかの脚色をすることは避けられない事です。
細かい事ではあるけれど、その脚色具合への不満が6ヶ所あったので書きます。感想であり、紹介ではないからネタバレを気にせず行きます。
(1)
「ドッグフードの刑」執行後、現場確認を終えた主人公は、近くにいたカエルに「お前は何を見たんだ?」と話しかけます。
冒頭、散らかった自室のソファーで目覚めたシーンや玄関で妻を見送る回想シーンからも推測できるように、主人公の仕事の忙しさから妻が子どもをつれて家を出てしまっています。妻に出ていかれ、それでも仕事に出かける主人公にカエルに話しかけられるだけの心理的余裕はあるのか、と疑問が浮かびました。
このシーンは原作にはなく、作品として重要なモチーフである「カエル」に重ねてタイトルを出すための脚色です。
(2)
「ドッグフードの刑」を執行された被害者と同棲する彼氏は金髪でした。
映像としての見映えのためでしょうか。このことは有効的な脚色だと感じました。
(3)
「均等の愛の刑」執行し、均等に切断された裁判官の遺体が自宅と愛人の勤め先に送付されます。原作では会社の事務員であった愛人ですが、映画ではクラブに勤めるキャバ嬢になっていました。
これも映像としての見映えのためにクラブのセットが選ばれ、愛人がキャバ嬢になったのだろうと推測しますが、裁判官がキャバ嬢を愛人にするのか?というところの疑問がありました。
原作どおり、一般企業の事務員の設定の方が、大学や仕事上での接点があり得そうに思えました。
(4)
女医がカエル男と双子であるという繋がりが急にあらわれ、クラクラしました。
資産家夫婦殺害が原作通りカエル男の犯行であるとするなら、その時に双子の片割れは何をしていたのか?という疑問が生まれます。
今回の犯行前に幼女樹脂詰事件があり、その時も双子の片割れである女医は気付かなかったと断言して良いのでしょうか?
(5)
原作と比べて主人公が痛めつけられすぎであるということ。
友人宅に身を寄せていた妻と子供がカエル男に誘拐されたのち、主人公とカーチェイスをするシーン。
カーチェイス自体は原作にもありますが原作では電柱に衝突するだけで、映画のように横転したり、カエル男がトラックを運転することはありませんでした。
また、主人公とカエル男がビルの屋上で対面する前、カエル男を探している時に主人公は車に撥ねられます。撥ねられてもカエル男を追う。執念というか、もう破綻してます。
(6)
カエル男の家でカエル男と対峙するシーン、原作では後姿を見て妻の立ち姿を思い出し、妻がカエル男のマスクを被っていることに気づきます。
しかし、映画ではしゃがみこんで泣き叫びます。「尾野真千子、なにしてんだよ?」と原作ファンである私は思いました。
以上のように、瑕疵ばかりを書いてしまいましたが、画面の暗さなどのトーン、リアルサウンド映画部でも記事になっていたカエル男・妻夫木聡はじめ俳優陣の演技などについては何の不満もありません。特に、田畑智子さんが短い時間ながら光っていたことも嬉しかったですし、「親の痛みを知りましょうの刑」で殺されるオタクがおでんの玉子を口に入れたあとにポンッと鍋に吐き出すシーンは良かったです。
市川実日子さんが出てきて嬉しかったのですが、これは私の観たい実日子さんではありませんでした(私のベストの実日子さんは『blue』です。あと、『午前、午後。』に続くエッセイ集の出版をお願いします)
主演・小栗旬の演技は『GTO』と『宇宙兄弟』くらいでしか観たことありませんが、原作の主人公を実在化させることに成功していたので、何の文句のつけようもありません。
原作はカエル男を追うことを重視して読みましたが、映画『ミュージアム』では「失いつつある家族」から「仕事と家族のバランス」について我が身を振り返ることに自分の重心が移っていくのを感じました。
原作の『ミュージアム』が完結する3巻の発売は14年4月で読了時は自分が独身で16年11月の現在は結婚しているからだろうし、尾野真千子の存在感が強かったせいもあるだろうと思います。
あと、大半の映画と同じように、ONE OK ROCKの主題歌も必要性が感じられませんでした。
映画を観に来た観客に無理やりにでも歌を聞かせられるし、CMやテレビの映画紹介時に曲が流れるということで主題歌があるのでしょうけども、ONE OK ROCKのCDの購買欲は刺激されませんでした。
市川実日子さんが公式サイトで「台本の中に、私の好きな歌が出てきました。明るくかわいい歌です。普段なら。このミュージアム界ではどんな歌に聴こえてくるのか、作品の完成が・・・とっても恐ろしいです」とコメントしていた曲、つまり、カエル男がつぶやくように歌っていた、大貫妙子「メトロポリタン美術館」が主題歌としてベストだったはずです。
そのままでなくとも、誰か(五十嵐隆さんとか?)にカバーさせればよかったのにと思いました。
原作ファンとして注文が多くなってしまいましたが、とても良い映画でした。集客も85%くらい埋まってましたし。