津村記久子「ディス・イズ・ザ・デイ 最終節に向かう22人」

津村記久子の新作「ディス・イズ・ザ・デイ 最終節に向かう22人」目当てで毎週土曜日にコンビニで朝日新聞を買っています。本来は金曜日の夕刊に掲載されているようなのですが、夕刊が出てない地域なので翌土曜日に載っています。

「ディス・イズ・ザ・デイ 最終節に向かう22人」とタイトルにあるように、この小説はサッカー2部リーグの最終節当日を描いた群像劇であり、舞台はサッカー・スタジアムです。

1話=1試合であり、対戦する2チームそれぞれのサポーター2名が中心になり話が動きます。この構造に気づいてから、読む楽しみが増しました。

全11話(恐らく)のなかで1人くらいはスタジアムに来ないサポーターも出てくるのでしょうか?

ある1日を描いているということで、1904年6月16日を描いた『ユリシーズ』のことを思い浮かべなくてはいけません。『ユリシーズ』を読んだことないので言及しないけど、傑作の予感があります。

2017年の1月に連載がはじまり、6月第2週に22回が掲載され、第4話が終わりました。

ここまでの4話に登場した2名の関係は、いとこ、家族、バイト仲間、バスで乗り合わせたというもの。次の話はどういう関係なのかと期待が高まります。

1話「えりちゃんの復活」

 オスプレイ嵐山(ヨシミ) VS CA富士(えり)

2話「若松家ダービー」

 泉大津ディアブロ(母・供子) VS 琵琶湖トルメンタス(長男・圭太)

3話「三鷹を取り戻す」

 三鷹ロスゲロス(貴志) VS 弘前ネプタドーレ(松下)

4話「眼鏡の町の漂着」

 鯖江アザレア(香里) VS 倉敷FC(聖一)


第4話「眼鏡の町の漂着」はテイストが、それまでの3話とは異なっていました。

それまでの3話は以前から面識のある2人で、最終節を経て関係が強くなる雰囲気がありました。

しかし、鯖江アザレアと倉敷FCの試合会場へ向かうバスで隣りに座り、終了後の売店で言葉を交わして別れた2人は、恐らくこれきりの関係です。

香里は元彼に影響されて鯖江アザレアを好きになり、誠一は地元のチームにかつて所属していた選手が在籍しているということで倉敷FCの試合を見に来ています。

同じチームのサポーターであれば再会の可能性はあるけれど、わざわざ遠方から異なるチームを応援に来た2人が再会することはないのでしょう。

木村俊介さんも言及されていたように、付かず離れずの、誰の日常にもありえそうな距離感を描くのが津村記久子は本当に優れています。

内牧巻子さんによる挿画は、その話の主要な場面がイラスト化されておりビジュアルでも楽しめる連載です。


「すばる」2017年4月号(特集「あの人の日記」)に津村記久子は「観戦日記」を寄稿していました。与えられた分量を丸々使って1試合の観戦記が記されていました。日記というと一定の期間内で、この日はどこどこで試合、この日はどこどこで試合と複数の観戦記録が書かれていると思いきや、短いルポになっていました。

スタジアムに足を運び、細部に目を凝らされていることで小説にリアリティが担保されています。

そうそう、津村記久子×サッカーといえば『この世にたやすい仕事はない』に出てきた「カングレーホ大林」。いつ登場するかを津村フリークとして楽しみにしています。