PUNPEE「Modern Times」感想編


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PUNPEEは今まで行ってきた数々の人たちとのコラボレーションによりプロップスを最大限に高め、お茶の間とシーンを繋ぐ存在になりつつあります。

テレビのテーマソングを作り(「水曜日のダウンタウン」)、CMに楽曲提供し(「レッドブル」「ファンタ」)、FNS歌謡祭に加山雄三と出演しても「セルアウトした」という声が出ずに喝采をもって迎えられるのは、提供や出演した楽曲の完成度がいずれも高いだけでなく、ECDドネーションTシャツを着るなどお茶の間に染まらず、シーンと地続きである態度や姿勢を崩さないためです。

コラボレーションによる単発の曲以外の、自分名義の作品では限定盤(「Movie On Sunday」やフジロック'17で販売したMix CDやメテオとのアナログ等)ばかり出していたPUNPEEがついに個人名義で販売枚数を限定しない作品をリリースしました。

音楽誌「MUSICA」17年1月号に掲載された16年のヒップホップシーンについての有泉智子さんとの対談のなかで、高木"JET"晋一郎さんが、PUNPEEについて「アンダーグラウンド性もあるんだけど、根本的に持ってるポップ性があるから強い」と話していました。

高木さんはPUNPEEのことを「アンダーグラウンドとポップ性の両立」と評していますが、「Modern Times」という作品は真逆の価値観が同居する多面的な作品であると感じました。

シーンのことはKOHHやtofubeats、5lackに任せて自由にやらせてもらうわといいながら、HIP HOPの枠を広げていこうという気概がひしひしと伝わってきます。

また、PUNPEEが親しんできた映画やアメリカンコミックの世界を下敷きにした、とてもパーソナルでな作品でありながら、箱庭に陥らず2057年から太平洋戦争まで100年以上の時間を自由に行き来する広がりや奥行きのある作品になっています。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を監督したジェームズ・ガンもそうだけど、身内をガンガン巻き込んで、自分の庭の中で大きい作品を作る感じがすごく好きです。

インタビューでも言っているとおりの作品になっています。

本作ではPUNEPEEが自分の趣味で覆いつつも、作品至上主義を貫いています。そのことは、「詩/詞」について通常なら「Lyric」あるいは「Words」と表示されるところですが、本作では「Script(脚本)」となっていることからも明らかです。

映画好きを公言しているPUNPEEならではとも言えますが、「Script」としたことで「アルバムとしての統一感」が他の作品とは群を抜いています。

「構成、ゲスト、歌詞」がアルバムとしての統一感(あるいはトータル・デザイン)のために機能しています。

< 構成について >

本作は40年後のPUNPEEと思われる人物が本作について語りだす「2057」からはじまり、「Interval」を挟み、「Oldies」の曲終わりでもう一度出てきて、映画のエンドロールにあたる「Hero」で閉じるという構成です。

時間軸では、「2057」年の未来からはじまり、過去に思いを馳せる「Hero」で締める構成になっています。

< ゲストについて >

リリース前にはトラックリストのみが公開され、ゲスト参加の面々は伏せられていました。

「feat.誰々」と曲に添えられていないのは、参加した面々も「Modern Times」という作品のなかでは「登場人物の一人」に過ぎないということです。PSGの復活(あるいは再結集)だってプロモーション的にはもっと声高にアナウンスされるべきなんですが、楽曲が第一であるため、ブックレットを見て「揃ってるじゃん」と気づく程度の素っ気なさです。


< 歌詞について >

パンピー=一般人」という匿名性の高い名前を名乗るPUNPEEは、ヒップホップ界隈では異色の存在です。呂布でカルマとかR指定とか般若とか強そうな名前を名乗りがちのなかで、一般人を自称する。名乗りだした当初は一般人に近かったのでしょうが、存在が際立っています。

一般にバンドやシンガー、ラッパーの曲における歌詞の内容は作詞者やボーカリストの実体験と錯覚してしまうことが多いですが、本作においては「Script」となっているため、曲の主人公を作者であるPUNPEEとイコールで結びつけることは安直です。本人も語るように別人格のキャラとしてのPUNPEEも登場していることに注意しなくてはいけません。

PUNPEEと名乗っているためか自分の強さを誇ることはありません。
板橋区のダメ兄貴」という自称そのままの内容がそろそろ頑張ろうという「Happy Meal」やPUNPEEという名前を気に入っているという「P.U.N.P」といった曲になっていますが、それすらも「板橋区のダメ兄貴」を演じるPUNPEEなのです。PUNPEEがダメ兄貴なら、世の中はダメ兄貴ばかりです。


繰り返しになりますが、この作品はどの角度から見るのかによって違った印象を与える作品です。

水曜日のダウンタウン」と兄弟のように、膨大な引用や隠しトラックやイースターエッグを探すのか、PSGやISSUGI、RAU DEF、A$AP Fergなど最前線の入り口とするのか、時間を自在に行き来する作詞家の誕生を祝うのか。少なくとも「今年のフジロックのベストアクトだったよねぇ~」と確認するための作品ではありません。CDJに呼びながら誌面では全く無視するロキノンはおいといて、「MUSICA」に載った4本ののレビュー、何だありゃ。

今年の、というかPUNPEEが二作目をだすまでは当分この作品がベストです。