津村記久子「ディス・イズ・ザ・デイ 最終節に向かう22人」(第5話~第9話)

tabun-hayai.hatenablog.com

第5話「篠村兄弟の恩寵」

奈良FC VS 伊勢志摩ユナイテッド

篠村靖(兄) & 篠村昭仁(弟)

兄弟で奈良FCに所属していた窓井のファンになったが、窓井の移籍とともに弟は伊勢志摩ユナイテッドのサポーターになり、兄はそのまま奈良FCのサポーターを続けた。


第6話「龍宮の友達」

白馬FC VS 熱海龍宮クラブ

睦美(イラストレーター兼ビル清掃のパート) & 細田(ビル清掃のパートの同僚)

睦美は実家のチーム・白馬FCのサポーター。細田さんは亡き夫が熱海竜宮クラブのサポーターだった。


第7話「権現様の弟、旅に出る」

遠野F VS 姫路FC

青木壮介 & 内藤親子(父と娘)

スタジアムに通っていることを会社バレしないように獅子頭を被って観戦する青木。ホーム初戦で頭を噛んでもらった内藤娘


第8話「また夜が明けるまで」

ヴァーレ浜松 VS モルゲン土佐

藤忍 & 広瀬文子

1部に昇格するかが気になって気持ちとは裏腹に高知行きの飛行機に乗ってしまった遠藤。高知空港で途方に暮れる遠藤に声を掛けた広瀬。広瀬は一緒に観戦しようとしていた彼氏に仕事が入り、成り行きで遠藤と高知観光したあとにスタジアムへ。


第9話「おばあちゃんの好きな選手」

松江04 VS 松戸アデランテロ

周治 & 周治の父方の祖母

数年前に周治の母方の祖母の葬儀に来ていた父方の祖母が松戸アデランテロのサポーターだと知る。母と父は離婚しており、祖母の存在が気になっていた周治は松江04が松戸アデランテロを迎える最終節に祖母を松江に招待する。 

朝日新聞に週1で掲載されている津村記久子「ディス・イズ・ザ・デイ」。先週末に第50回が掲載され、第9話まで終わりました。サッカーの2部リーグ、計22チームの最終節を1試合ずつ描いてきた本作なので、残すはあと2話です。いよいよ最終回が近づいてきました。

新聞やネットで試合結果や優勝チームを知るだけの私にとって、シーズンを通してスタジアムや球場に通うことを毎年繰り返し、同じチームの応援を続けるのは違う世界のことでしたが、この連載を通して少しずつ身近になってきました。

優勝に絡まなければ変化のない1年でしょ?と思いきや、似たような結果に終わったとしても、同じシーズンが繰り返されているわけではないのです。

チームとしては3部リーグへの降格や1部リーグへの昇格がかかっていたり、贔屓選手が活躍したり怪我したり、新人が入って来たり移籍したり引退したりということがあり、一方でサポーター個人としても仕事や私生活で色々起きて何らかの変化が生じています。

「ディス・イズ・ザ・デイ」の素晴らしさは幾つもあり、選手への注目の仕方もその一つなのですが、それ以上に人間関係の距離の描き方がつくづく素晴らしい。津村記久子は前々から人間関係の描き方が素晴らしかったのですが、今回が一つの到達点です。

作品の構成として、対戦チームのサポーター同士が最終試合のスタジアムに居合わせるのが各話に共通する流れです。チーム同士は勝ち負けを決めなくてはいけないから「VS」の関係になり、サポーターも全体でみるとチームに連動して「VS」の関係であるように見えます。とはいえ、個人レベルになると、目的は反対だけれど、自分の応援するチーム以外のチームの情報も入ってくるため、優劣が最優先ではなく、互いを尊重する関係性になっています。寛容であるとはこういうことです。

スタジアムに居合わせる2人のつながりは、いとこ、兄と弟、母と息子、祖母と孫といった血縁関係もあれば、バイトの同僚、同じ大学の同級生という顔見知り、最終節のスタジアム周辺でたまたま会っただけの関係もあります。

いずれの関係も応援しているチームが異なるため、FacebookTwitterのタイムライン上では生まれることのない関係です。スタジアムに通うことで生じた繋がりです。血縁関係がある場合も、それぞれの家や式で会っている時とは異なる一面、平野啓一郎が提唱するところの「分人」が顔を出して、いとこの抱える悩みや子どもの成長、祖母の自分への思いなどを知ることになります。

「選手への注目の仕方」というのは、サポーターが主人公の小説であるため、選手がどういう気持ちで最終節に臨んでいるかを語ることはなく、選手は試合するか雑誌にインタビューが載る以上の動きが描かれていない事です。スポーツ選手には、触れ合える距離まで、そう簡単には降りてきてほしくないのです。

小説の構成として最終節の試合を目指して話が進んでいるため、試合を迎えるまでのことに紙幅が割かれていて、試合終了と同時に各話が終わります。そのため「もう少しこの人たちの人生の続きが読みたいっ!」と毎回悶え、どの人も来年もスタジアムに通い、ここで新しい接点のできた2人は今後も交流が続くのかな?と想像したりします。

初見で読む時は各話の面白さに引っ張られて試合結果は二の次でしたが、シーズンの最終順位が決まる最終節であるから試合結果も重要だよなと気付いたけれど、切り抜きを捨てていないにせよ整理が悪いので散逸しています。

試合結果は単行本発行時に再読して確認しますが、単行本化の際は巻頭と巻末に最終節前後の順位表を掲載して欲しいものです。