Creepy Nuts「クリープ・ショー」(ついでにR-指定とPUNPEEのこと)

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Creepy Nuts「クリープ・ショー」を聴いて感じたことは、3つあります。

「ロックバンドっぽさ」、「フリースタイルの延長」、「サブカルの最高峰」の3点です。

― 僕はCreepy Nutsのライブには、いい意味でロックバンドっぽさを感じるんです。

松永  たまに言われますね。でも正直その自覚はまったくないんです。

R-指定 めちゃめちゃヒップホップしてるつもりですからね。

松永  でもサウンドやキャラクター、ライブのスタイルも、ほかのヒップホップアーティストと被らないことをできているのかなとは思います。

 

natalie.mu


音楽ナタリーのインタビューで以上のように答えているけれど、「助演男優賞」で主役を食う存在を列挙した最後に「ロックフェスでのクリーピーナッツ」という一節を置いているので、ロックフェスでの立ち位置は意識しているはずです。

フジロック'17に出演したPUNPEEは「フジからフジ」と出演後に音源で言及しましたが、フジロック'18に出演する5lackやAIR JAM'18に出演するKOHHが音源でフェス出演に向けての意気込みを作品に落とすことは想像できません。

トラックやテンポもロックバンド寄りと感じたので、Creepy NutsをDOTAMAの所属するFINAL FLASHと同じ箱に入れました。ほぼほぼロック界隈専門のライターである兵庫慎司さんが「SPA!」にレビューを寄稿し、繰り返しきいてもいるそうですし。

 

2つめ「フリースタイルの延長」と3つめ「サブカルの最高峰」は関連しています。

良くも悪くも、R-指定が「クリープ・ショー」で披露したものは「フリースタイルダンジョン」の延長にあると感じました。

良く言えば一貫性があるってことで、悪く言えばパターンがないってこと。

フリースタイルダンジョン」で呂布カルマに白旗を挙げさせた「見た目だけカッコつけた【コンプラ】 でもハートはチキン 名古屋コーチン FAKE佐村河内 Shall we 死のダンス 役所広司」。

名古屋コーチン」は呂布カルマが名古屋のシーンを代表しているからで、「役所広司」は「Shall We ダンス」の主演俳優というように、連想と引用がR-指定の持ち味です。

R-指定は、サブカルと定義されている物をあらゆる面から引用し、サンプリングしています。そのスタイルがそのまま「クリープ・ショー」でも実演されていました。

サブカル中年の私が気づけたのもあったし、見抜けない要素もたくさんあるだろうから「サブカルの最高峰」であるなぁと感じました。

「めちゃめちゃヒップホップしてるつもりです」とはいえ、R-指定のヒップホップは過去の日本のヒップホップを咀嚼したR-指定なりのヒップホップであって、海外のヒップホップからの参照点はありません。

恐らくR-指定は海外のヒップホップはほとんど聴いていないだろうし、ネタ元は日本のサブカルチャーであるから、日本のロックシーンとの親和性が産まれているとも言えます。

(追記:「Rさん結構USも聞いてますよ」というコメントが来た。Nasを引用しているから聞いてないことはないだろうけど、ここ数年のものも聞いているんだろうか?)

 


気付いた元ネタの一例を以下に挙げます。詞の内容は、「やってやんぜ」という意気込んでいるものが多いです。


1)手練手管

 

2)ぬえの鳴く夜は

> Half man Half amazing

Naz「It Ain't Hard to Tell」(「Illmatic」収録)。元は「Nas is like the Afrocentric Asian, half-man, half-amazing」

 

3)助演男優賞

>田岡の不安要素

スラムダンク」で湘北高校と対戦した陵南高校の監督が「田岡茂一」。決勝ブロックで湘北と対戦するにあたり、湘北の不安要素を挙げます。

「湘北には不安要素がいくつもある。今はまだそれが表面化していないだけだ」
「湘北の不安要素その1はファウル・トラブルだ!!」
「不安要素その2――選手層がウスい!!」
「湘北最大の不安要素―――安西先生不在!!」
「湘北の不安要素その4!! 素人・桜木!!」


>明るい未来?暗い未来?/俺が森山なら後者/モテキなんざ来る訳ねぇじゃん/各駅停車 苦役列車 Let's Go

モテキ」「苦役列車」両方とも、森山未來の主演映画(2011年、2012年公開)。

 

4)紙様

テレビドラマ「新・ミナミの帝王」主題歌ということもあり、お金をテーマにしている

「ヒデぇ男(英世)」「一応(一葉)」「行き違い(諭吉が良い)」と紙幣の肖像の面々も登場させている。

 

5)Stray Dogs

6)新・合法的トビ方ノススメ

7)俺から退屈を奪わないでくれ

8)かいこ

「かいこ」とは「懐古」のことか。

ガムのキャンペーンソングなので「味の残ってるガム」「深くまで味が染み込んで」とある。


9)トレンチコートマフィア

2014年に「DJ松永 feat. R-指定」名義で発表

1999年にアメリカで起こった事件「コロンバイン高校銃乱射事件」の犯人が「トレンチコートマフィア」と自称

 

10)だがそれでいい

「タウカン、ピコ」の正式表記は「TOWN & COUNTRY 、PIKO」。

地方在住ならともかく、大阪・梅田の繁華街にアクセスできるのにイオン、しまむら、タウカンやピコを選んでしまうってどういうことだ?という疑惑がなくもない。他に選択肢があるなかで本当にイオンやしまむらでタウカンやピコの服を買っていたとしたら、R-指定がいまだにルサンチマンを引きずるのも理解できる。


>間違っても証言のインストでフリースタイルとかすんなよ

RINO、DJ YAS、GAMAによって結成されたLAMP EYE。そのLAMP EYEYOU THE ROCK★ZEEBRATWIGYDEV LARGEといった当時のオールスターをフィーチャリングした楽曲が「証言」。

 

11)月に遠吠え


12)スポットライト

>使えない奴らトレンチコートマフィア/たりないふたりか?所詮脇役か?

「トレンチコートマフィア」は9曲目「トレンチコートマフィア」のことで、「たりないふたり」「脇役」はインディーでリリースした「たりないふたり(16年1月)」「助演男優賞(17年2月)」のことです。

「MONSTER VISION」の詞で「フリースタイル・ダンジョン」で自分に勝った焚巻やKOPERU、崇勲らの名前を挙げたように、R-指定には自分に注目してくれるファンへのサービス精神があります。

 

 

R-指定やCreepy Nuts「クリープ・ショー」のことを考えると、PUNPEE「Modern Times」との違いが明確になりました。


「クリープ・ショー」の元ネタが以上のようにわかる一方で、「Modern Times」はアメコミやSF小説、映画からの引用が多かったため、何のことだかさっぱりわかりませんでした。チミチャンガとか。

R-指定が中学デビュー、高校デビューできなかったことのルサンチマンを抱えている一方で、PUNPEEは一般人を名乗りながらも飄々としています。

学年で一番人気のあの娘と
冴えない男子代表のパンピーな私が
放課後屋上で遊んだりとか
今 おもえば結構リア充だったよな
(略)
30近くなっていざ会ってみたら
尖ったあいつは心身共に丸くなり
無口なあいつは成功して小金持ちに
ヤサグレてた飛行少女の女子とも
共通の趣味で話が進んだり

「Les Aventuriers feat.PUNPEEtofubeats

先日Abema TV「宇多丸 水曜 The NIGHT」に持ち込んだ「あんた あの娘(韻)の何なのさ」という韻(ライム)をどのように扱っているかをチャート分けする企画。

そこでPUNPEEや5lackは挙げられていませんでした。忘れたのか、意識して外したのか。

助演男優賞」の中では「ロックフェスのCreepy Nuts」とあるだけから、誰が主演男優賞だと特定せず、チャレンジャーとして挑んでいるという位置づけなのでしょう。

とはいえR-指定の客演仕事は最近の「MONSTER VISION」をはじめとして晋平太やKEN THE 390、ACEとフリースタイルバトル関係の相手のみで数も多くないし、こういった面でも「PUNPEE」のことを意識しているんじゃないのかなぁと思った次第。