ジェーン・スー『生きるとか死ぬとか父親とか』

 

80歳手前の父と40代半ばの娘。2人という最少人数で構成される家族の日々を読み進めるうちに、読者自身の家族のことが頭の中をよぎり続けることでしょう。


著者はTBSラジオ「生活は踊る」のパーソナリティとしての肩書が最も知られていますが、エッセイスト、コラムニストとしての一面もあり、著作も出版しています。今までの著作の大半はタイトルから女性向けと判断し手にとってきませんでしたが、本作は家族のいる誰もに届き、誰もが読むべき作品です。


著者は父親と月1回くらいの頻度で母親のお墓参りに行きます。別々に暮らしているため、父の近況を知ったり、娘にお願いごとをするにはお墓参りという理由が双方にとって欠かせないことがわかります。母親は亡くなってもなお父と娘の緩衝材になっており、家族の一員であり続けています。


1話1話は短いのですが、父親の存在感が読者をひきつけます。派手なシャツが似合い、女性の懐に入るのがうまく、男としての顔もあり(世話をしてくれている女性の存在が薄く出てきますが、そこには踏み込んで行きません)、飄々と生きながらも、ハッとするような人生訓を著者に放ち、読者の胸を貫通していきます。


「現実は見栄を超える」という父親の警句がさらっと紹介されています。詳しい説明は省略されていますが、「生活は踊る」リスナーならピンとくるのではないでしょうか。気になる方はラジオの書き起こしを参照ください。

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人生相談をまとめた番組本『相談は踊る』を除けば、本作が全方位に向けた初の著作です。筆力が存分に伝わる作品なので、著者はこれを機に広く世に出ていくのは疑いようもありません。早くも続編が楽しみですし、いずれは小説をと欲が進んでいきます。

 

本書は父と娘の話であり、家族の話ですが「家族って良いよね」と礼賛してはいません。

 

読者は父と娘それぞれへ自在に自分を置き換えながら、自身の両親や、養うべき家族のことを考えるはずです。老後に生活できるだけの貯金をしておかなくてはとか、今は全くだけど父と母や先祖のことを知りたくなる日が来るのかとか。都会・地方関係なく、結婚しても両親との同居を選ぶ方が珍しい現在においては余計に。