「日本語ラップ名盤100」韻踏み夫

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帯を外した表紙には本書タイトルを英訳したものが載っている。

「A Guide To 100 Japanese Rap Great Albums

100枚+関連盤200枚の計300枚を挙げることで「ガイド」としての役割を全うしている。

繰り返しになるが、本書で挙げるのは「ベスト」ではなくて「ガイド」。

本書は100枚を並べて「日本語ラップ」の輪郭を描こうとし、その試みは成功しています。

 

日本語ラップのベストアルバム100枚」とすると、年末に各メディアが発表する年間ベストのように選定するメディアや人がどこに基準を置くかでラインナップは全く違うものになっていきます。

もしくは合議制で選考委員の投票で決めるか。合議制の問題点は同じアーティストでも人によってベストとする1枚がことなることで、票が分散することです。その結果、100枚のなかに同じアーティストの作品が複数ランクインしてしまいます。

どちらにしてもベストを選ぶには日本語ラップシーンは巨大になってしまいました。

 

本書「日本語ラップ名盤100」は著者でたり選者である「韻踏み夫」が先行する文献を参考に、自身の趣味趣向を極力廃し、日本語ラップの全体像を描くことに徹しています。「極力」とつけたのは、選考の過程で自身の趣味趣向を廃することは可能なのだろうか、という疑義からですが、解説文から著者自身の趣味趣向を嗅ぎ取ることはできませんでした。

本書が「ガイド」とて優れているのは、基本的に1アーティスト1枚という縛りを設けていることです。1アーティスト1枚をリリース年の順に並べ、関連盤が2枚紐付けられることで、「これが入っていない」というありがちな苦情はほぼほぼ出てこないのではないでしょうか?

最もわかりやすい例としては、KREVA「心臓」の関連盤としてKICK THE CANCREWとCreepy Nutsが紐付けられています。

 

細かい苦情を言うなら、tofubeats「lost decade」の関連盤で同じtofubeatsの「FANTASY CLUB」が選ばれていたことです。同じトラックメーカーつながりでSTUTSやKMを選んでいた方が適していたのではないかな、と思いました。

STUTSやKMといったトラックメーカーには焦点が当たっていませんでしたが、バンドにはないラップ独自のあり方だと思うのでどこかにねじ込んで欲しかったなという気持ちになりました。

個人的にはOTOGIBANSHI'Sも入れて欲しかったですが、今は動きが止まっているし、BIMからの流れですぐにたどり着けるから漏れるのは仕方ない面はあります。

イルリメ、やけのはら、ERA、環ROYといった日本語ラップシーンに無視されがちな人たちにちゃんとページを割いていたことと、フリースタイルバトルだけでまともな音源を出していないひとはちゃんと載せていないことの2点でとても信用できるガイドであると感じました。

だいたいSpotifyで聴けるが、Spotifyにないのもあるので何とかして入手を試みていきたい。

日本語ラップ名盤100」、おすすめします。