「監獄ラッパー」B.I.G. JOE

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単行本を持っていたが、まだあるのか、読まないまま売ってしまったのかは忘れた。

2014年8月に発行された新潮文庫版は実家から持ってきていた。8年も前に買った文庫本を今になって読もうと思った理由はわからない。なんとなく、であるとしか言えない。

読みかけの本は何冊もあるが、一気に読み終えてしまった。

 

B.I.G JOEのことを最初に知ったのは、2013年1月に発行された「ヒップホップの詩人たち」(新潮社)という都築響一によるラッパーへのインタビュー集。

そこでB.I.G JOEのことを知り、「監獄ラッパー」の単行本を買ったのだろうが、音源は買っていない。

B.I.G JOEの名前を意識して音源を聞いたのは、今回「監獄ラッパー」を読み終えた数時間前が最初。

今になって振り返ればCDを持っているOLIEVE OILとILL-BOSSTINO、B.I.G JOEによる「MISSION POSSIBLE」やTHA BOSSのアルバム「IN THE NAME OF HIPHOP」収録の「WE WERE,WE ARE」に客演しており、知らず知らずのうちに、その声は耳を通っていたことがわかる。

 

1975年生まれのB.I.G JOEが、オーストラリアの空港で逮捕されたのが2003年2月なので27歳のときのこと。

本書「監獄ラッパー」には収容されていた6年間のことが克明に描かれています。

日本の刑務所事情のことは知りませんが、外部への電話が認められていたオーストラリアのジェイルだったから、電話を通した録音が可能であったと本書にもありました。

提供される食事の他にも自分たちで料理したり、週1回は買い物を依頼できるなど、案外楽しめるのかな、と錯覚しそうになりますが、例えば閉鎖病棟や外に出られない寮と置き換えると窮屈さがわかります。

B.I.G JOEがジェイルで過ごした6年間は、単純に小学校の6年間と一致しますが、この喩えではしっくりきません。

例えば、Spotifyの日本でのサービス開始が2016年9月で、あいみょんの「愛を伝えたいだとか」や「君はロックを聴かない」は2017年のリリースです。

2016年のベストドラマは「奇跡の人」(峯田和伸麻生久美子)、「ちかえもん」(松尾スズキ)、「トットてれび」(満島ひかり)でした。「ちかえもん」が出会いのきっかけだったので優香の結婚は6年も経っていません。

だんだん、6年間の歳月が実感を持ててきました。

 

「監獄ラッパー」を読むと自分を保ちつづけることの重要性がわかります。加えて、英語が必須条件となるわけで、日本の刑務所に収容されるのとでは過酷さが異なります。

B.I.G. JOEにはラップがあったのでかろうじて、自分を保ち続けることができましたが、いくらでも負のサイクルに巻き込まれる危険性はあったのでしょう。

負のサイクルに巻き込まれないための心構えがまとめられていました。

ジェイルで生きるための10の戒め

1 自分の運命を受け入れろ

2 看守には絶対歯向かうべからず

3 システム側と癒着するべからず

4 他人にリスペクトを払え

5 他人に期待しずぎるべからず

6 無駄に群れるべからず

7 敵を作るべからず

8 約束は必ず守れ。できない約束はするべから

9 外の世界の問題に首を突っ込むな

10 何を見たとしても口をつぐめ

ちょうど今朝、「がっちりマンデー」(TBS)で紹介されていたエビの加工工場では「仲良くするな」「他人に期待するな」とパート社員に条件をだしていました。ドライに見えてしまいますが、派閥を作らないようにするため、理にかなっていることがわかりました。

会社には友だちを作りに来ているわけではないのです。

この戒めには刑務所内に限らず、実社会でも通用する内容です。

 

たとえ出所間近であろうが、何年務めていようが、最後の最後になっても、ジェイルはお仕置きの場だ。溜め息が出るが、もう口笛に変えよう。

自由も好き放題にやりっ放しじゃダメだろう。自由なものにはそれだけ大きな責任が伴うのだ。汗を流して働いて、我慢をして自分で得たお金で、それに見合うものを手に入れる。派手ではなくともシンプルに生活をし、人と出会いながら、何かを分かちあって生きる。そんな生活が今の僕には待ち遠しくてたまらないのだ。

受刑者の身分でおこがましいが、今日という日は、生きていると実感できる瞬間であり、それはまったく感動的ですらある。僕は興奮というちっぽけな震えで、この瞬間を濁したくないんだ。しっかり目を見開き、無言で噛みしめたいんだ。

6年間の収容生活から出た言葉をB.I.G JOEと同程度に身に刻むことはできないが、何分の1かでも身に染みこませるくらいのことができたら良いと思う。

 

前科というレッテルを貼られ、社会やまわりからの信頼を失った受刑者の多くは、新たな犯罪を他の犯罪者から学び、社会への憎悪を一層増幅させ、ここを出たら次はもっと賢く罪を犯してやる、などと意気込んで出てゆくのである。

刑務所は更生施設としてはまったく機能していないと僕は思っている。その逆に、犯罪者をより協力にさせ、増加させる工場の役目は存分に発揮しているとは思うが・・・。

収容されている人は何らかの欠陥を抱えている、とも書いてあった。生まれつきなのか、家庭環境のせいなのか、事情はわからないが。悪いことをしたら反省させる一方で、もっと許容していける社会になっていけば行くことを望む。

 

「監獄ラッパー」はB.I.G JOEのキャッチフレーズになっているが、本書はB.I.G JOEの基礎部分を知ることができるだけではなく、漂流記とも、思索を正しく深める哲学書とも読むことができた。。