寺尾文孝「闇の盾」

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寺尾文孝は元・警察官の機動隊員で、現在は日本リスクコントロール社長。

「闇の盾」の副題は「政界・警察・芸能界の守り神と呼ばれた男」。帯には以下のようにあります。

人知れず「権力者」たちが闇から闇に処理してきた事件、トラブルの数々。その陰には必ず、この男がいたーー

少し前に赤石晋一郎「完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録」を読んだので同じように昭和の事件の裏側について語った作品を読みたくて手に取りました。

結論を書けば「完落ち」の大峯泰廣ほど昭和の事件の中心にはいませんが、知らなかった出来事や人物について知ることが出来ました。

例えば、和田忠浩。『難波金融伝・ミナミの帝王』のモデルになったと言われ、和田アキ子の叔父にあたる人物。

和田は、午後三時から事務所を開け、商売を始める。そこから一時間のうちにカネを作れるかどうかで手形が不渡りになるという人間が和田を頼ってくるのだ。和田は暴力団にもかなりのカネを貸していたようだが、バブル崩壊後は資金繰りに詰まり、恐喝などで逮捕され、銀行取引停止になった。

例えば、鶴巻智徳。バブルの頃に九州のど真ん中に自動車レース場を造った人物。

鶴巻の会社、日本トライトラストは東京温泉が入る銀座六丁目のビルの中にあった。東京温泉は元メルボルン五輪のクレー射撃代表選手だった許斐氏利が始めた施設で、日本初の本格的サウナがあったことで知られる。

「許斐」「氏(うじ)」と来れば、「フリースタイルダンジョン」の進行で知られるUZIの父か祖父だろうと思い調べたら、祖父でした。帯には江本孟紀が「こんなに顔の広い人には会ったことがない」とコメントを寄せ、「本書に登場する人物」として、後藤忠政田中角栄周防郁雄小林旭佐々淳行といった名前が載っています。政治家、芸能プロ社長、暴力団などが交差する場所に寺尾文孝はいたことがわかります。

広すぎる人脈の産物である交遊録や直面した出来事をそのまま載せてしまっているから、書籍としては散漫な印象が残りました。

「完落ち」は犯罪を解決するという軸がありました。本作「闇の盾」は昭和の出来事の裏話に加え、政治・芸能・暴力団を行き来する登場人物の多さと、お金の使い方に驚いている間に読み終えてしまいました。

「墓場まで持っていく秘密」という章はありますが、書ける範囲で秘密に近いエピソードであり、本当に書けないことは載せてないだろうから風呂敷の広げ方に少し落胆しました。

著者は長野県の出身なので、時折、佐久市や長野県の直富商事など馴染みのある地名や会社名が出てきたときに接点を持つことが出来ました。

いずれにしても、フィクションでは作り出せない人物であることは間違いなく、波乱の時代を生きぬいてきたことは疑いようもありません。よくもまぁ、狂わずに死ななかったな、とも思った。