「星新一 一〇〇一話をつくった人」最相葉月

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平成19年(2007年)に単行本が刊行された当時に書評が掲載され話題になっていた感覚はある。けれど、実際に本書を購入したのは文庫化され、週刊文春の連載「文庫本を狙え」で坪内祐三さんが紹介したのがきっかけ。平成22年(2010年)4月15日号に掲載されており、読み終えた文庫は2冊とも平成22年4月1日発行の第一刷。
購入してから13年経ち、今になって読む気になった理由は自分でもわからない。今年は上巻を読んでそのままになっている本が3冊あり、もう1冊読めば4冊で区切りがいいということも働いている。
他の3冊はまだ買っていないこともあるが、上巻読み終えたのちは他の本を読んだ。しかし、本書「星新一」は上巻を読み終えたのち、すぐに下巻に取りかかった。

本書「星新一 一〇〇一話をつくった人」はタイトルのとおり、ショートショート作家、星新一(1926年[大正15年]9月6日~1997年[平成9年]12月30日/享年71歳)の人生を追った評伝。

亡くなる前の新一や遺品整理の事が書かれた序章で引き込まれたが、星製薬社長である父・星一に振り回され、父の急逝に伴い社長を継いでしまうところは読むのに苦労した。
その後、星親一が作家・星新一となる第4章以降は読むのを止めることができなかった。1001話を達成後の第12章からは燃え尽きた星新一が描かれ、筆圧がさらにあがったように感じられ、こちらもつられて加速した次第。

ショートショートへの自負があり、1001話を積み重ねた星新一はSF界の重鎮になりながらも「評価されない無念さ」が下巻を覆います。
星雲賞」をはじめとする文学賞は後輩の筒井康隆が持っていき、星新一ショートショートは書評でも触れられることがありません。
ショートショートの短さと読みやすさがそのまま質の低さにされてしまったような扱いを受けています。

「ボッコちゃん」の文庫化(昭和46年5月)以降、星新一は売れ始めた。その理由は読者の交替だった。読者層の中心が大人のマニア的なSFファンから、一般の高校生、中学生へ急速に低年齢化していた」(下巻の帯より)

昭和46年(1971年)の「ボッコちゃん」文庫化により売れはじめた星新一の諸作は50年以上経った2023年でも売れ続けています。
2023年10月の新刊書店にもブックオフにも星新一の文庫本は10冊以上並べられています。そんな作家は松本清張村上春樹など数えるほどしかいません。

作家としては、生前に売れて、死後に読まれることも重要だが、誰かの心に残る作品を書いていることを文学賞という形でSF界や文壇から評価されたかった作家が星新一です。

大衆芸能である「お笑い」は売れることと名誉を得ることが近い位置にありますが、「小説」のなかには売れているけれど、名誉と遠く離れてしまう作品もあります。
芥川賞直木賞ノーベル賞といった作家が評価する文学賞だけでなく、「このミステリーがすごい」や本屋大賞など市井の読者が評価する賞もありますが、ショートショートを書き続けてきた星新一を評価する賞は今現在も存在していません。

先に誰もおらず、あとから誰も来ない道を一人進んだ星新一の孤独と、父親の負の遺産を兄弟や妻にも相談せず一人で抱え込んだ親一の孤独。両方の孤独が描かれ、本書は重厚な読み応えを残しました。

 

本書は「本人と親交のあった関係者134人への取材と、膨大な遺品からたど」られており、本書には「間に合った」傑作という面もあります。

例えば、平成19年2月付の「あとがき」で名前の挙げられている、取材を行ったが刊行前になくなられたという「宇山秀雄」(平成18年8月に死去)。
ミステリ愛好家ではない私は2022年3月に発行された追悼文を集めた「新本格ミステリはどのようにして生まれてきたのか?」で「宇山日出臣」の存在を知りました。

宇山氏のことはメフィスト賞を創設した人物として捉えていましたが、講談社入社後に星新一のもとを訪ね、講談社文庫入りを懇願していたことを本書で知りました。キャリアの初期に星新一がいたのだから、星新一の文芸界に残した影響はさらに広がりを持ちます。

 

取材されたなかで印象に残るのは、やはりタモリ
三者の語る銀座のバーでの星新一タモリの仲の良さも良いし、伊豆にある二人の別荘が近いということもすごい縁であるし、タモリの別荘に招かれた際の美しい夜の話は本書の末尾を飾るにふさわしい。
「取材はフジテレビ「笑っていいとも!」の放送終了後の十五分間という約束だったが、まだまだ話し足りないといった様子」のタモリの生き生きとした話しぶりが想像できました。

 

個人的な読書遍歴のなかで星新一との唯一の接点が中学生の時の美術の授業。美術教師が「繁栄の花」という作品を持ち出して、各々の「繁栄の花」を描くという課題の出たことを今も覚えています。

ブックオフ新潮文庫、2020年のプレミアムカバー「ボッコちゃん」を見つけたので購入しました。

これから星新一とのつきあいが始まります。

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