本の感想/書評

「星新一 一〇〇一話をつくった人」最相葉月

平成19年(2007年)に単行本が刊行された当時に書評が掲載され話題になっていた感覚はある。けれど、実際に本書を購入したのは文庫化され、週刊文春の連載「文庫本を狙え」で坪内祐三さんが紹介したのがきっかけ。平成22年(2010年)4月15日号に掲載されてお…

年末までの読書計画

「本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎」(本の雑誌社)に収録されている「読書計画は修正こそが愉しい」に触発されて、年末までの読書計画を立てようと思い至った。 普段は計画ありきの読書ではなくて、その時々のバイオリズムで読書が捗ったり、そうで…

古賀史健「さみしい夜にはペンを持て」

ベストセラー「嫌われる勇気」で知られる著者は過去に「20歳の自分に受けさせたい文章講義」(星海社新書/2012)、「みんなが書き手になる時代のあたらしい文章入門」(スマート新書/2017)、「取材・執筆・推敲」(ダイヤモンド社/2021)という3冊の文章…

樋口毅宏「無法の世界 Dear Mom,Fuck You」

樋口毅宏の発禁後第一作「無法の世界」を読む。正確には『中野正彦の昭和九十年』が出版社イースト・プレスの担当とは異なる編集者にイチャモンをつけられて回収に追い込まれた後の第一作。 本作は本作で江口寿史がなかなか装画を仕上げてくれず、やきもきす…

新潮文庫「海外名作発掘シリーズ」

「海外名作発掘シリーズ HIDDEN MASTERPIECES」をご存じでしょうか? 大々的な宣伝はせず、証しは帯に描かれた小さなマークだけ。そんな「わかる人だけわかる」感もマニア心をくすぐる「海外名作発掘シリーズ」が、新潮文庫で継続中だ。エンタメの旧作を中心…

「老人と海」の5日間で起きていたこと

(訳・高見浩、新潮文庫) 1日目(P7~)P7 漁師は老いていた。一人で小舟を操って、メキシコ湾流で漁をしていたが、すでに八十四日間、一匹もとれない日がつづいていた。P8 全身、枯れていないところなどないのだが、目だけは別だった。老人の目は海と…

デルモア・シュワルツ「夢のなかで責任がはじまる」

2023年7月2日の読売新聞の書評欄で宮部みゆきがスティーブン・キング『死の舞踏』(2017年9月ちくま文庫/1993年)を紹介していました。書店に在庫はなく、Amazonに注文したら730ページという分厚すぎる文庫が届きました。書店に実物があれば厚さに尻込みし…

坪内祐三「玉電松原物語

2020年1月に急逝された坪内祐三さん。坪内祐三さんの著作は、大きく3つにわけることができる。「本、古本、書店」と「明治・大正」、そして「東京」。坪内さんの著作、連載を追いかけていたが、地方在住の私にとって最も遠かったのが「東京」についての著作…

目黒考二、北上次郎の功績、あるいは書評文化を作った人について

「本の雑誌」を創刊した目黒考二が逝去された。それはつまり、書評家・北上次郎の死去と同義です。 私の本に対する入り口の9割は坪内祐三さんによって作られているから、北上次郎さんのことを知ったのは、坪内祐三さんが連載していた月刊誌「本の雑誌」がき…

小西マサテル「名探偵のままでいて」

「エンターテインメントを第一義の目的とした広義のミステリー」を募集対象とした文学賞「このミステリーがすごい!」大賞の受賞作。例年の受賞作と比較して刊行前から大きく注目され、地方の書店でも大きく展開されている理由は文学賞への信頼もあるでしょ…

マキヒロチ「おひとりさまホテル(1)」

「スケッチ―」の最終6巻の刊行を控えるマキヒロチの新作「おひとりさまホテル」を書店で発見したので購入しました。マキヒロチは新作が出ると買う作家の1人です。本作はタイトルのとおり「1人でのホテル利用」がテーマとなっています。主人公1人のホテル利用…

BOOK OF THE 2022

1 AA くるまの娘 宇佐見りん2 AA 2010s 宇野維正、田中宗一郎3 AA メロン牧場‐花嫁は死神7 電気グルーヴ4 AA なんとかしなくちゃ。青雲編 恩田陸5 AA 芸能界誕生 戸部田誠6 AA 続・横道世之介 吉田修一7 AA 編集とは何か。 奥野武範8 AA 熔果 黒川博行9 AA …

ビジネス書との関りを振り返る

レジ―「ファスト教養」を読み終えました。 ファスト教養というと中田敦彦や「ひろゆき」を代表とするYouTubeを見る行為と考え、自分には関係ない事と考えていました。しかし、「ファスト教養」の序盤で言及されているNewsPicks Bookを読んでいた時期が私にも…

2022年あと2月の読書計画(年内に読みたい20冊)

11月に入ったので、2022年は残り2ヶ月。あと何冊の本を読めるのか? 今年は10月までに41冊を読み終えました。月4冊平均とすれば残り8冊。10月は7冊読めたので、維持できれば2ヶ月で14冊読めることになる。昨年は55冊を読んだので、昨年並みを目標とすれば14…

「君のクイズ」小川哲

本庄絆の伝説の一つに、歴代ノーベル文学賞受賞者の完全回答というものがある。 『超人丸』のコーナー、「第三回知能超人決定戦」での出来事だった。十五分の時間制限で、ノーベル文学賞受賞者の名前を可能な限り書け、という多答問題が出題された。本庄絆は…

高橋ユキ「逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白」を読んで考えたこと

今回のエントリには「読んで考えたこと」とつけました。 読んだ本についてブログで書くときは、感想や考えたことを書いています。それは当たり前の話なのだけれども、もう少し言葉を足すなら、その本に内容に沿い、書かれていることから自分の琴線に触れたこ…

「監獄ラッパー」B.I.G. JOE

単行本を持っていたが、まだあるのか、読まないまま売ってしまったのかは忘れた。 2014年8月に発行された新潮文庫版は実家から持ってきていた。8年も前に買った文庫本を今になって読もうと思った理由はわからない。なんとなく、であるとしか言えない。 読み…

「日本語ラップ名盤100」韻踏み夫

帯を外した表紙には本書タイトルを英訳したものが載っている。 「A Guide To 100 Japanese Rap Great Albums 100枚+関連盤200枚の計300枚を挙げることで「ガイド」としての役割を全うしている。 繰り返しになるが、本書で挙げるのは「ベスト」ではなくて「…

「この部屋から東京タワーは永遠に見えない」麻布競馬場

川名潤さんの装丁なら「物」として、その本には買う価値がある、と考えている。 川名潤さんが自身の装丁した書籍を紹介しているインスタグラムを見ればタイムラインの横列のうちの1枚、つまり3冊に1冊は所有している本であることに気づく。 そのインスタのス…

「考える人のメモの技術」下地寛也

メモの大切さは理解しているが、全然実践できていないので手に取った本書。 カバーの袖にはこのように書いてあった。 メモの手を止めない人だけが、自分だけの答えにたどり着ける。 本書で書かれている「メモの技術」は2つ。 「普段の気づきをメモする技術」…

雑誌「Number 1058・1059」

「なぜ今、読まれているのか 似て非なる名将 落合博満と野村克也」と題された特集が組まれていたので「ナンバー」を購入しました。 鈴木忠平「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」と加藤弘士「砂まみれの名将 野村克也の1140日」という2冊の本が…

「僕の心臓は右にある」大城文章

本書には何年の出来事かが書いてないので、少し、その辺を補足することから始めたい。 1975年1月22日 生まれる1989年 NSC大阪校へ8期生として入学(14歳/中学3年)1994年 NSC大阪校へ13期生として再入学(19歳)1998年 上京(23歳)2018年1月 「人志松本の…

2022年9月の「週刊ヤングマガジン」

「ドラゴンボール」や「スラムダンク」、「幽遊白書」、「ろくでなしBLUES]、「こち亀」などが載っている90年代の「少年ジャンプ」の目次写真を載せて、「このジャンプ凄すぎ」と書いているツイートを定期的に見かける。 「90年代のジャンプ」に読み飛ばすマ…

「マイ・ウェイ 東京ダイナマイト・ハチミツ二郎自伝」

読み終わって「自伝」とは何かを考え、「自分が伝えたいこと」と定義した。 「自伝」の反対側には、「伝記」や「評伝」がある。 坪内祐三の「慶応三年生まれ七人の旋毛曲がり」や「探訪記者 松崎天民」、最近では「嫌われた監督」(鈴木忠平)、「出禁の男 …

「ちばてつや追想短編集 あしあと」(小学館)

2021年に発表された「ちばてつや、23年振りの短編集」。 まず、その表紙をみれば、ちばてつやの巧さと線の太さを理解できます。 カメラは天井にあり、ちばてつやの仕事場を映します。机があり、それより高い位置にベッドがあり、下の階へ続く階段も確認でき…

BOOK OF THE 2021

2021年は55冊読んだ。2020年は57冊だったので2冊減っているが、BランクCランクをつけた作品がなく、要はハズレをひかなかったので、質は充実していた1年になった。 55冊のなかで小説は13冊なので2割くらい。55冊のうち文庫は1冊、新書は2冊なので、新刊の単…

読書日記(2021年11月22日~12月5日)

11月23日(火・祝) 昨日から読みはじめた「平成のヒット曲」(柴那典)を読み終わる。 tabun-hayai.hatenablog.com 11月24日(水) 「現代生活独習ノート」(津村記久子)は短編集なので、そのうちの1篇を読む。 「文學界」(2021年5月号)も少し読む。あと…

阿部和重「ブラック・チェンバー・ミュージック」(毎日新聞出版)

分断された世界に抗う男女の怒濤のラブストーリー! 落ちぶれた映画監督の前に突然現れた北の女密使。出会うはずのない二人が、国家を揺るがす〈禁断の事実〉を追う。 いまから話す内容を決して口外してはならない――大麻取締法違反で起訴され、初監督作品は…

柴那典「平成のヒット曲」(新潮新書)

平成とは、どんな時代だったのか――。「川の流れのように」から「Lemon」まで、各年を象徴する30のヒット曲から時代の実像に迫る。ミリオンセラー連発の1990年代、音楽産業が大きく変化した2000年代、新たな流行の法則が生まれた2010年代……。小室哲哉からミス…

読書日記(2021年10月25日~11月7日)

10月25日(月) 「週プレ」の読書ページに「嫌われた監督」の著者である鈴木忠平さんのインタビューが載っていた。同じページで紹介されていた「反逆の神話」が気になったのでAmazonのカートに入れる。 「つつまし酒」(パリッコ)を読み終える。色々な酒の…