くるり「ハイウェイ」
くるりが2003年11月にリリースした「ハイウェイ」。
楽曲の長さは4分20秒で歌詞は16行。口ずさみやすく覚えやすい一方で、全体を通して読むと歌詞の意味はとらえどころがありません。
歌詞に沿いながら、自分なりの解釈をまとめたいと思います。
僕が旅に出る理由はだいたい百個くらいあって
ひとつめはここじゃどうも息も詰まりそうになった
ふたつめは今宵の月が僕を誘っていること
みっつめは車の免許取ってもいいかななんて思っていること
語り手である「僕」は旅に出る理由を挙げていきます。旅行に出かける理由は、研修や慰安、鑑賞など何らかの目的とイコールであることが普通です。
1つ2つで十分なはずですが、100個あると宣言し、列挙しはじめます。しかし、最初に挙げる2つの理由から具体性のない曖昧なものであり、今いるこの場所から離れたい気持ちだけが伝わってきます。
さらに、3つ目で「車の免許を取ってもいいかななんて思っていること」と自動車免許を持っていないことを明かします。
通勤に使う車かバイクがあるから、会社を辞めて、旅に出る。そんな想像は覆され、そもそも車の免許を持っていませんでした。車の免許がなければ車もないわけで、電車で出かけるつもりだったのでしょうか?恐らく、どこでもいいからどこかへ行きたい、ここから離れたいという気持ちだったのでしょう。
俺は車にウーハーを(飛び出せハイウェイ)
つけて遠くフューチャー鳴らす(久しぶりだぜ)
何かでっかい事してやろう
きっとでっかい事してやろう
自動車免許を持っていないからなのか、車種でも車体の色でもスピードでもなく、「車にウーハーをつけて」と音響へのこだわりが第1に来ます。
高速道路(ハイウェイ)を進み、ウーハーで未来(フューチャー)を鳴らすことを夢想しています。
「久しぶりだぜ」と言うので、語り手は以前にもフューチャーを鳴らしたことがあるようです。幼少期の万能感でしょうか?
「何かでっかい事してやろう」「きっとでっかい事をしてやろう」という曖昧でヴィジョンのない決意表明から、就職せずにモラトリアムを過ごしている10代か20代前半の語り手を思い浮かべます。
飛び出せジョニー気にしないで
身ぐるみ全部剥がされちゃいな
やさしさも甘いキスも後から全部ついてくる
全部後回しにしちゃいな
勇気なんていらないぜ
僕には旅に出る理由なんて何ひとつない
そして、新たな登場人物である「ジョニー」に「見る前に跳べ」に似た人生訓を語ります。語ったあとで、「僕には旅に出る理由なんて何ひとつない」と「僕」の告白に戻ります。
「ジョニー」は実在する人物ではないのでしょう。第三者への語り掛けを装いながら、自分に言い聞かせています。
手を離してみようぜ
つめたい花がこぼれ落ちそうさ
この2行の関係には不自然さがあります。
「手を離さないで。つめたい花がこぼれ落ちるから」あるいは「手を放そう。つめたい花を手放そう」なら因果関係がわかります。
「手を離してみようぜ」と呼びかけながら、「こぼれ落ちそうさ」とこぼれ落ちて欲しくないような言い方をします。
つまり、「手を放すこと」と、「つめたい花がこぼれ落ちる」ことに因果関係はなく、別の位置にあるものが同時進行で動いていると解釈できます。
どこから手を離そうとしているのか?つめたい花は何のメタファーでしょうか?
全てを読んだのち、最終的に疑問が浮かびます。「僕」は旅に出たのか?出ていないのか?
「旅に出た」「旅に出ていない」という2つの読み方ができると思います。
「旅に出た」場合は、言い訳のように理由を並べたけれど、理由は必要ないから旅に出ちゃえと決心して旅に出たと解釈できます。
「旅に出ていない」場合は、旅に出る必要はなく、ここでやれることをはじめればいいじゃないかと思うに至り、旅に出なかったと解釈できます。
歌詞には焦燥感がにじみますが、歌詞をのせる旋律はアコースティックギターが印象的で淡々としており、のんびりとした雰囲気が漂います。ここにあるのは諦めなのでしょうか。繰り返されるサビもなく、中心の場所すら曖昧です。
「ハイウェイ」はもともと「ジョゼと虎と魚たち」という映画の劇伴を岸田繁が担当した流れでテーマ曲としてつくられた楽曲です。
もともとあった楽曲を映画に使用するならともかく、タイアップ発信の楽曲であれば、耳に残るサビが用意されるものだと思いますが、「ハイウェイ」にはありません。
映画のための楽曲であったため「サウンドトラック」には収録されましたが、直後にでたアルバム「アンテナ」には収録されず、2枚のベストアルバム(「ベスト オブ くるり / TOWER OF MUSIC LOVER」と「くるりの20回転」)にしか収録されていません。
タイアップ発信という曲のできる経緯や歌詞や曲、アルバムに収録されない扱われ方を含めて、「ハイウェイ」には不意に産まれた捉えどころのない魅力を感じました。