津村記久子『ディス・イズ・ザ・デイ』(カングレーホ大林の不在を埋める『この世にたやすい仕事はない』)

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杜王町、仙醍キングス、EAST TOKYO UNITEDなど小説やマンガに出てくる架空の町やチーム。どこかのチームの熱狂的なサポーターでなければ、実在する町やチームに対してより親近感が持てるはずです。

2015年10月に刊行された『この世にたやすい仕事はない』には「カングレーホ大林」というサッカーチームが出てきました。

2017年1月から朝日新聞で連載がはじまったサッカー2部リーグを舞台とした小説『ディス・イズ・ザ・デイ』。

カングレーホ大林は最終話に登場しましたが、アウェイで、最終節前に1位で上位リーグへの昇格を決めていたためか、消化試合のような描き方がされていました。エンブレムのデザインについての記述もなく、話の中心が、同じチームのサポーターになっていた交流がなく離れて暮らす父と娘に寄っていたため、余計にその印象が強くなりました。

カングレーホ大林のことを思い出すために『この世にたやすい仕事はない』に収められた「大きな森の小屋での簡単なしごと」を読み直しました。

『この世にたやすい仕事はない』は、前の職場を退職した主人公が職を転々としていく短編集で、その5つめの職場が、大林大森林公園内にある小屋。

カートには、公園にホームスタジアムが隣接しているサッカークラブであるカングレーホ大林の、タカアシガニがあしらわれたエンブレムが塗装されている。(中略)スタジアム建設時に、タカアシガニの化石が大量に発掘されたので、カングレーホ大林のエンブレムにはタカアシガニが登場するらしい(後略)

 カングレーホ(cangrejo)はスペイン語で「蟹」という意味です。

カングレーホ大林が昨シーズンの終わりに2部への降格が決まり、それと同時にスペイン出身のバスク人、コルドビカ・イザギレは家庭の事情で帰国してしまいます。
降格と同時だったので降格したチームを見切ったと思われていたそうです。しかし、大病を乗り越えた父親の看病を終えイザギレは復帰します。

半年後に、イザギレは日本に戻ってきて、降格したカングレーホ大林と契約し直して、今も元気にプレーを続けているらしい。カングレーホ大林は、先週昇格を決めたとやはりネットのニュースで見かけた。

イザギレだけでなく、百合岡という選手も登場します。

センターバックの百合岡がね、U21の試合で頭から血を流しながらヘディングでゴールしたことがあって、それを見てファンになって、それが高三の秋のことで、そのままここに就職を決めました。

カングレーホ大林の、コルドビカ・イザギレ選手と百合岡純選手が駆けつけてくださいました!と司会者は言う。(中略)百合岡純は、イザギレとは逆に、思ったより大きかった。もしかしたら190センチはあるのではないか。

カングレーホ大林は1部リーグから降格後、1シーズンで2部リーグに昇格します。

つまり、『この世にたやすい仕事はない』で描かれた1年間は、『ディス・イズ・ザ・デイ』で描かれるシーズンと同じ1年間なのです。

『ディス・イズ・ザ・デイ』はWeb本の雑誌「今週はこれを読め」(評者:松井ゆかり)「一冊の本」6月号(評者:木村俊介)などネットでも読める書評だけでなく、各文芸誌に掲載されたものも読みましたが、カングレーホ大林や「この世にたやすい仕事はない」に触れている書評はなかったので、カングレーホについてを中心にまとめました。

『ディス・イズ・ザ・デイ』を補完するのが『この世にたやすい仕事はない』です。

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最初に読んだときの感想。刊行から4年近くたつのにまだ文庫化されていない。

tabun-hayai.hatenablog.com