石持浅海「殺し屋、やってます。」
余計なことを考えると、行動が制約される。行動の制約は、失敗に直結する。プロとして、絶対に避けなければならない。
殺し屋を扱った小説を読むのが好きです。好きとはいえ、伊坂幸太郎「グラスホッパー」「マリアビートル」、曽根圭介「殺し屋.com」しか読んだことありません。
殺し屋は存在している/存在していないが曖昧であるため、ファンタジー小説としてとらえています。ファンタジーという前提がありつつも、信ぴょう性を確保するために細部には凝っているので引き込まれてしまいます。
殺し屋小説を読むとき、以下の項目が気になります。
1 どのような経緯で殺し屋になったのか
2 どのように依頼するのか/されるのか
3 どのような手口で実行するのか
本書「殺し屋、やってます。」の場合「1」は省略されていて、「2」についてが、この作品の面白さです。
依頼するには前金、成功報酬の合計として650万円かかります。
東証一部上場企業の社員の平均年収を基準としており、年収分を払えるか?というハードルを設定することで、安易な依頼をふるいにかけています。
依頼にあたっては、依頼人と殺し屋との間の連絡係を2人挟むことによって、殺し屋に接する連絡係が依頼人の情報を持つことがなくなり、依頼人に接する連絡係が殺し屋の情報を持つこともなくなるというたシステムが採用されています。
「依頼者→仲介2(伊勢殿)→仲介1(塚原:普段は公務員)→殺し屋(富澤:普段は経営コンサルタント)」という流れで依頼が伝わります。
実際の内容についてですが、以下の7編から構成される連作短編集です。
黒い水筒の女
紙おむつを買う男
同伴者
優柔不断な依頼人
吸血鬼が狙っている
標的はどっち?
狙われた殺し屋
いずれも30ページ程度で、サクサク読めてしまいます。内容は章のタイトルどおりです。
「内容が薄い」「殺し屋の腕が良すぎる」「会話が不自然」などの感想を見かけましたが、見当外れとしか言えません。
そもそも「殺し屋、やってます。」というタイトルの小説に重厚感を期待するのが間違っています。
「絆回廊」「狼花」「毒猿」「無間人間」「炎蛹」、、、、というタイトルなら重厚感を求めてもしかたないですが、そのようなタイトルではありません。
このような感想を抱く人は恐らく電子書籍で読んでるのでしょう。装丁から内容を判断することができていないのです。
ハードカバーで斤量の重い紙を使っていれば重厚感を求めても仕方ないですが、本書はソフトカバーです。
「会話」については、「殺し屋小説=ファンタジー小説」という前提が理解されていないので、会話が不自然に思われたとすれば残念なことです。そもそも「自然な会話」なんてあるのか?と思いつつ、会話については小説世界の雰囲気とあっているかどうかです。
私は気になりませんでした!
いずれにしろ、殺し屋・富澤、仲介役1・塚原、仲介役2・伊勢殿、富澤の恋人・雪奈とキャラが立っているから、すぐにドラマになると思います。
その際、歯科クリニックの院長でもある「伊勢殿」役はリリー・フランキーか吉田鋼太郎でお願いします。
表紙カバーに描かれている缶ビールとビーフジャーキーの袋は、依頼を受けた男が新しい仕事の前に行う儀式に由来するんですが、その儀式だってカッコつけてると読めるだろうけど、そこを楽しめるかどうかが重要です。
表紙カバー、タイトルに魅かれて購入したので、千海博美さんの名前を覚えておくことにします。
殺し屋小説の例として挙げた曽根圭介「殺し屋.com」について、13年9月20日付でAmazonに投稿しました。
「カジノ王」名義で書いた短い感想をサルベージついでに引用しておきます。
「殺し屋稼業の現在」
現代の「殺し屋」はタイトル通り、「殺し屋.com」というサイトにアクセスして仕事を得ています。キャッチコピーは「殺りたい仕事がきっと見つかる」。
サイトにアクセスし、仕事一覧から入札して仕事を得ます。スタンガンや銃なども同じサイトから入手できる仕組みです。
本書では、「殺し屋を副業とする刑事(第1話)」「行動範囲内にライバルがいて競り負けている昼はヘルパーの殺し屋(第2話)」「依頼に失敗して組織と随意契約を結び、不履行の殺し屋を殺す(第3話)」などの計4話がおさめられています。
つじつまが整っているから妙な説得力があり、現実味も帯びています。
「近ごろの若いヤツはバイト感覚でこの業界に入ってくる。掟や忠義なんて時代はおわったのさ」というセリフ。どの業界も同じなのかなと思った次第です。