ブルボン小林「ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論」

2008年5月に「週刊文春」で隔週連載がはじまった「マンガホニャララ」。単行本としては3冊目にあたる本作。2018年10月とある「あとがき」は「まだまだ連載は続く(多分)し、評の言葉を届けたい。漫画を愛するすべての皆さん、どうぞ応援よろしくお願いします。」と締められていますが、その後、年内で連載は終了を迎えました。

前作「マンガホニャララ ロワイヤル」の読者プレゼントでピノコの手拭いを頂戴した御礼を込めてはなむけの言葉をまとめます。


2つのカウンターによって、「マンガホニャララ」は特別な「漫画評」となっていました。

1発めのカウンター。
「枕のある、コラムのような書評」

 朝日新聞読書欄に掲載され書評の書き出しを引用します。

 夏休み、自主練で登校していた水泳部の女子高生がプールから戻ると、部室のロッカーから制服が消えていた。いじめか!?と思いきや、たまたま知り合った育休中の女性警察官の見解は外部の犯行。はたして真相はーーという表題作はじめミステリー仕立ての5編を収めた短編集。
「制服ぬすまれた」衿沢世衣子 / 評者:南信長

 

表題作は第21回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品。
「電話・睡眠・音楽」川勝徳重 / 評者:山脇麻生

 

字数制限(500字)あるし、余計な遊びがないのは理解している。だから余計に、ブルボン小林の遊びが印象深くなります。

 2018年のマンガ賞で3冠を獲得した鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」を紹介した回の冒頭を引用します。 

 

 大谷君はメジャーの新人王を獲れるだろうか。
 野茂は大リーグ1年目で活躍し、95年の新人王を獲得したが、地元メディアの一部は「果たして彼は『新人』だろうか」と疑義も呈した。そりゃあ、そうだ。野茂の活躍から二十余年。大谷君は最初から新人という目で見てもらえないかもしれぬ。
 『メタモルフォーゼの縁側』をめくって、野茂の新人王を思い出した。鶴谷香央理の初の単行本だが、めくれば「うまいねぇ」どころでない、剛球の風圧にたじろぎ、本当に新人か?と疑いさえ抱く。
(18年5月27日号)

 
2発目のカウンター。
 「語りたいと思ったらどんなマンガでも紹介する」

年末に発表されるベストにランクインするマンガは総じて1巻で完結する作品や、数巻しか刊行されていないマンガばかりです。

雑誌「フリースタイル」このマンガがすごい!のベスト10入りした作品のうち9作品が1、2巻しか出ていませんでした。残り1作は、7巻で完結した「あれよ星屑」。

マンガを紹介する人は、先物買いというか、自分が目利きであることを証明したがるので、ついつい出たばかりの作品に注目してしまいます。

「ワンピース」や「はじめの一歩」、「弱虫ペダル」、「キングダム」は今だって面白いはずですが、今年面白かったマンガとしてランキングに入ることはありません。

ドラマ化されたら雑誌で紹介されないし、ランキングにも入らないのです。

「マンガホニャララ」では、このことに対する明確なアンサーを打ち出しています。

「あのとき熱く褒めていた人たちにいいたい」というタイトルの回で「僕だけがいない街」を、「ドラマは終われど、連載は続く『重版出来!』」で「重版出来!」を取り上げています。

ブルボン小林はマンガとあれば、何にだって手を延ばし、なんだって読みます。一時代を築いたマンガだけでなく、雑誌で紹介されなければ、年末のランキングにも乗らないようなマンガを。例えば少女コミックだったり、ゴルフ雑誌に連載中のゴルフマンガ、麻雀を扱ったマンガ、教師が原作の教育マンガ、「白竜」のような読者の9割9分が男のようなマンガなどを。


ちょくちょく週刊文春で連載を読んでいたこともあり、「ザ・マンガホニャララ」を通して読んでこのマンガ読みたいなと思ったのはありませんでした。本書がレコメンドとして機能しているかは疑問ですが「マンガ評」としては金字塔を打ち建てたのは疑いようがない。

好きなマンガを読んで、好きに語っていけばいいのだと勇気づけられる一冊です。

 


「マンガホニャララ」は「週刊文春」での連載が終わるだけでなく、単行本は連載元の文藝春秋ではなく「クラーケン」から刊行されました。要は、マンガ評は売れないと判断されたわけです。

「マンガホニャララ」と隔週で載っていたいしかわじゅんの連載も終わったので、マンガを紹介している紙メディアは、朝日新聞と週刊SPA!テレビブロスくらいになりました。