目黒考二、北上次郎の功績、あるいは書評文化を作った人について

 

本の雑誌」を創刊した目黒考二が逝去された。
それはつまり、書評家・北上次郎の死去と同義です。

私の本に対する入り口の9割は坪内祐三さんによって作られているから、北上次郎さんのことを知ったのは、坪内祐三さんが連載していた月刊誌「本の雑誌」がきっかけだったろうか。
あるいは、父親が椎名誠の愛読者であったから、そちらがきっかけだったのかもしれない。
北上次郎さんのベストワークはロッキング・オンが発行していた雑誌「SIGHT」で行われていた大森望さんとの書評対談「読むのが怖い!」だったと思っている。

『読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド』(ロッキング・オン) - 著者:北上 次郎,大森 望 - 豊崎 由美による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS

 

目黒考二北上次郎の功績について「Real Sound」に「目黒考二が開拓し、北上次郎が花開かせた書評文化ーー「本の雑誌」創刊者の功績を振り返る」という記事が載っていました。

時代的にまだ、書評といえば新聞で大家の作家や評論家が書くものだという認識が残っていた。けれども、そこでは自分たちが読みたいSFやミステリーといったエンターテインメント系の小説が取り上げられることはない。だったら、自分たちで書いて自分たちで広めたいという思いで立ち上げた「本の雑誌」の登場が、書評を大衆化させ共感できるものへと変えていき、今の誰もが好き好きに本について話せる状況を生み出した。

目黒考二が開拓し、北上次郎が花開かせた書評文化ーー「本の雑誌」創刊者の功績を振り返る|Real Sound|リアルサウンド ブック

 

書評文化について書いた着眼点はその通りですが、私も口を挟みたくなったので書きます。

目黒孝二がやっていることは「この本が面白いから、読んでみろよ」という紹介や推薦です。
目黒孝二・北上次郎のやっていることを「書評」とした場合、反対側にあるのは「文芸評論」「文芸批評」です。
「文芸批評」が結末についても言及しているのに対し、「書評」には読みどころしか書いていません。
「書評」でどこまで結末に迫るかは書き手に委ねられていますが、北上次郎さんは新聞や雑誌より分量の多い文庫の解説においても結末に接近せず、「いやはや面白いから、解説なんていいから読んでみろよ」と語りかけているようでした。

それにしても、「Web本の雑誌」に転載されている「新刊めったくたガイド」。最新のものは1月号掲載分ですが、死の予感が全くありません。きっと2月号にも死の予感を嗅ぎ取ることはできないでしょう。いつもどおりの文章で、だからこそ「急逝」という感があります。
藤代三郎として行っていた競馬情報誌「ギャロップ」での連載「馬券の真実」。結果として最終回となった2022年12月25日号には以下の文章が載っていたようです。

今回しみじみと感じたのは、健康がいちばんということだ。普段は馬券が当たらないことに文句を言ったりしているが、毎週元気で馬券を買っている日々こそ、極上の日々なのである。

藤代三郎さん死去 ギャロップ連載「馬券の真実」最後のコラムを再録 - サンスポZBAT!

 

かつて目黒考二として「本の雑誌」で連載していた「笹塚日記」が今も続いていたら通院や体調についても書かれていたのだろうか。

本の雑誌」は坪内祐三さんが亡くなって定期購読をやめてしまい、それ以降はたまに購入する程度の距離感になっていました(「Web本の雑誌」は毎日閲覧しています)。
岡留安則坪内祐三西村賢太と組まれてきた追悼号。(不謹慎ながら)目黒考二北上次郎の追悼号も3月4月には出るはずです。読もうと思う。

「新刊めったくたガイド」で目黒考二さんが担当していた「エンタメ」は誰が引き継ぐのだろうか。読んでいる小説の傾向がエンタメに寄ってきたから、頼りにしていたのだけれども。

また、目黒考二が逝去し、椎名誠の体調にも陰りがあり「本の雑誌社」も岐路に差し掛かりつつあるように見える。精神を引き継いでいるでしょうから、何の心配もしていません。見かけたら買うようにします。