くるり「東京」~「ミュージック・ポートレイト」岸田繁×又吉直樹

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東京の街に出て来ました

あい変わらずわけの解らない事言ってます

恥かしい事ないように見えますか

駅でたまに昔の君が懐かしくなります

 

くるり「東京」

 

2016年10月27日に放送された『ミュージック・ポートレイト』「岸田繁×又吉直樹 第1夜」において、又吉さんがくるり「東京」を10曲のうちの1曲として挙げていました。その「東京」の歌詞の冒頭について以下のように話しており、衝撃を受けました。

「あい変わらずわけの解らない事言ってます」ってことは、出てくる前からわけのわからん事を言うてたんやっていうのと、それですごいなんか色んなことが説明してなくてもわかるっていう

又吉さんは「あい変わらずわけの解らない事言って」るのは、上京してきた主人公であると解釈してるわけです。それを聞いていた岸田さんはニコニコしていました。

 

 「あい変わらずわけの解らない事言ってます」について、わけの解らない事を言っているのは、主語は、「東京の街」であると15年くらい解釈してきました。

住んでいた街とは違う人の多さに加えて、各店舗から流れる音楽や街頭ビジョン、呼び込みの声が溢れている騒がしさに対してのことなのかと。

そして、心もとない東京で、強がりだろうけど「恥ずかしい事ないように」ふるまって、溶け込もうとする主人公の姿を思い浮かべていました。

自分が「わけの解らない事を言ってる」と自分で客観的に判断できるのは疲れてるときくらいです。よっぽど疲れている時以外は、周囲から「わけの解らない事を言ってる」と思われてたとしても、自分のなかでだいたいの理屈は通っているはずです。

 「あい変わらずわけの解らない事言ってます」と距離を置いた言い回しをしているし、この部分の主語は「東京」で良いと思うのですが、どうなんでしょうか?

 

 

岸田繁 選曲

1曲目   「The Entertainer」 スコット・ジョプリン

2曲目   「1974 (16光年の訪問者)」 TM NETWORK

3曲目   「GOOD TIMES BAD TIMES」 LED ZEPPELIN

4曲目   「BELLBOTTOMS」 The Jon Spencer Blues Explosion

5曲目   「東京」 くるり (※インディーズver.)

6曲目   「Pyramid Song」 Radiohead

7曲目   「交響曲第39番(3楽章)」 モーツァルト

8曲目   「帰って来たヨッパライザ・フォーク・クルセダーズ

9曲目   「琥珀色の街、上海蟹の朝」 くるり

10曲目 「おぼろ月夜」

 

又吉直樹 選曲

1曲目   「カレーライス」 遠藤賢司

2曲目   「からたち野道」 THE BOOM

3曲目   「MOTHER」 奥田民生

4曲目   「東京」 くるり (※メジャーデビューver.)

5曲目   「明日はどっちだ!」 真心ブラザーズ

6曲目   「JACK NICOLSON」 bloodthirsty butchers

7曲目   「オールドルーキー」 竹原 ピストル

8曲目   「IGGY POP FANCLUB」 ナンバーガール

9曲目   「ぼくのお日さま」 ハンバート ハンバート

10曲目 「太陽のブルース」 くるり

2016年9月24日(土)、25日(日)のこと ――― というか、りんご音楽祭のこと


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りんご音楽祭2016の感想です。

 

「りんご音楽祭」とは長野県松本市アルプス公園で開催されている音楽フェスティバルです。ラインナップの特徴として、インディーバンドとヒップホップがメインとなっています。ヒップホップ系の人を中心として、MCのなかで主催者であるdj sleeperのことに触れるアーティストが多いのも特徴の1つ。スリーパー氏の人徳!

長野県内での単独公演がほとんどないアーティストばかりなので、長野県在住35歳の私が行かない理由はありません。

長野県民が一斉に集まっていると思ってました。思ってたんですが、水曜日のカンパネラコムアイがどこから来たのか手を挙げさせたところ、長野県内50%、関東40%、その他10%という割合でした。

行くときのシャトルバス乗車前に名前と年齢を記入することになってて、それを見たら30代は数組で、8割は20代以下でした。

2日間を通じて、会場が明らかに満員だったのは、藤井隆早見優tofubeats、PUNPEE、水曜日のカンパネラMINMIあたり。

 

< 藤井隆早見優 >

藤井隆が満員の観客に向けて1曲目から「ナンダカンダ」を放ったサービス精神に感服しました。もう1,2曲なんか歌ったけれど、だいたいは「これから早見優さんが登場します」という告知MCでした。

早見優は「夏色のナンシー」を登場と同時に歌いだしたけど、マイクの音量が小さすぎて、、、。

 

< The K-ing All Stars >

始まる前から加山雄三Tシャツを着用した年配のファンが最前列に陣取っていました。加山雄三が登場した時、人間の厚みというか存在感を感じまました。

英語の曲を2曲くらいではじめたときは何を歌ってんのかなと思ってました。

が、キヨサク作曲の「continue」から場の雰囲気が変わりはじめ、PUNPEEを呼び寄せた「お嫁においで2015」で沸騰しました。

一度終わったあと、ウエノコウジ先導による「若大将コール」のちは「サライ」「夜空の星」と誰もが知っている/聞き覚えのあるキラーチューンを連発しましした。

最高でした。

ウエノコウジは「お嫁においで2015」で暇そうにしている時の立ち姿も抜群に格好良かったです。


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< PUNPEE >

2日間で1番多くのステージに立ったのがPUNPEE氏であることはまちがいありません。The K-ing All Starsの他にも、G-RINA、一十三十一のステージにも客演したそうですし、中夜祭にも出演していました。

そのP氏のステージは2番目に広い会場のトリでした。P氏地蔵でぎゅうぎゅうになっていたので「どついたるねん」はやりにくかったろうなと察します。メイン会場の前野健太はすきずきしていたそうなので、この時間帯で一番人を集めたのがP氏なのは間違いありません。

そのP氏のステージ。私には不満のあるステージでした。

P氏が披露したのは、ライムスターとの「Kids in the Park」、STUTSとの「夜を使いはたして」、5lack「東京」、8月末の「AVALANCHE 6」で披露した新曲、PSGの曲。流したのは5lack「東京」、レッチリなど。あとゲストでC.O.S.A.(1日目のステージはテント2張り分くらいのスペース。当然のごとく満員、、、)が来ていました。

「Kids in the Park」「夜を使いはたして」が流れればアガルけれど、終わった時に満足できたのかと言えば、できていない。

はっきり言って60分の構成を意識した流れが作れていませんでした。

客演した時の盛り上がりや集客力を考えればPUNPEE氏がスターなのは間違いありません。スター街道を進み始めたPUNPEEの看板を背負ったライブをするには、やはりPUNPEE名義のオリジナルアルバムが必要なんじゃないでしょうか?

単独名義のアルバムを待望されていることはP氏も自覚しているようで「アルバムがどうなってるかは中夜祭ででもはなしかけてください」とMCで言ってました。

(関係ないけど、レイザーラモンRGのPUNPEEあるあるは、「いろんなアーティストとコラボしがち」)

 

< アナログフィッシュ >

下岡晃の「出かけた」「はなさない」からはじまり佐々木健太郎の「Baby Soda Pop」「Good bye Girlfriend」や新曲を挟んで、「No Rain(No Rainbow)」「抱きしめて」で終わりました(たぶん何曲か抜けてます)。

05年の『BGM』に収録された「出かけた」が聴けたのは嬉しく、「抱きしめて」の佐々木健太郎パートではちょっと泣きました。

 

< 水曜日のカンパネラ >

前のアナログフィッシュ直後からステージ前に人が集まりだし、はじまる前から多くの人で会場が埋まっていました。そして、ステージ右側の関係者テントの端っこから神輿に乗ってコムアイが登場してきました。ステージ前を確保していた人はコムアイが最初に出てきた瞬間を見逃すことになって気の毒でしたが、コムアイさすがだな、と思わせました。

 

< THA BLUE HERB >

1曲目はクラムボンとのコラボ曲「あかり from HERE」でした。この曲聴けたら優勝です。

他の曲は全然知りませんでしたが、BOSSの存在感や人間力が圧倒的でした。

終演後、物販に寄りたかったけれど開始前に長い列が出来てたので並ばずに帰りました。

後日、tha BOSSが被っていて、最後に客席へ投げた帽子が7,800円と知り驚きました。

とはいえ、tha BOSSの衝撃は大きく、帰宅してから買ったままにしていたtha BOSS『IN THE NAME OF HIPHOP』を聴き始めました。

 

特に印象に残ったアクトについて書きましたが、他にはOTOGIBANASHI’S、KAKATO、吉田一郎向井秀徳アコースティック&エレクトリックギターウルフ、王舟、DOTAMAあたりを見ました。

ヘリノックスの椅子を出してくつろぎはじめると、他のステージに移動するのが億劫になってしまい、見逃したアクトは幾つかあります。

見逃すってことは、りんご音楽祭が自分にとって「日常」に近くなってきた証拠なのかなと。

 

不満があるとすれば、生ビールを売ってなかったとこ。会場レイアウトは一昨年とガラリと変わってましたが、良い変化だと思いました。

 

それでは、また来年。

小林聡美『読まされ図書室』

14年12月の単行本刊行時に書店で手に取った時は「装丁が凝ってるな。タイトルはそういう意味なのね」くらいで済ませていました。文庫が刊行されて読み通した時、『読まされ図書室』というコンセプトの革新性に気づき、目から鱗が落ちました。

普通の書評集と異なる点は、「著者である小林聡美さんが選んでいないこと」と、「選んだ人は小林聡美さんのことを考えて選んでいること」です。

まず「著者である小林聡美さんが選んでいないこと」について。

私が本やCDのレビューに接する時、内容以上に評者が何を選んだのかを気にしてしまいます。

たとえば、『文庫本宝船』(本の雑誌社)などにまとめられている坪内祐三さんの「文庫本を狙え!』。

たとえば、宇野維正さん、いしわたり淳治さん、石井恵梨子さんといった評者に注目してしまう「MUSICA」のレビューページ。

たとえば、『小泉今日子書評集』。

次に「選んだ人は小林聡美さんのことを考えて選んでいること」について。

1冊読めばその本の感想を言ったり書いたりすることはできます。しかし、1冊読んだだけでは「特定の誰か」に薦めることはできません。

「さっき読み終わったばかりの面白かった本」ではなく、「過去に読んだことのある本の中から選んだ小林聡美さんに読んでもらいたい本」を薦めています。

評者は小林さんと何らかのつながりがあるようで、手紙のような導入から徐々に本の内容に踏み込んでいきます。

たとえば皆川明さんから鬼海弘雄『ぺるそな』を推薦された回。

「長々と家の猫の半生を書いてしまったのは、『ぺるそな』におさまったおびただしい数の物言わぬひとびとの肖像を見たからである」と続くように、猫の半生から文章がはじまります。

かつて、「ありふれた生活」を通して知った、三谷家の犬や猫の様子を小林聡美さんからの目線で垣間見ることができたのは嬉しい誤算でした。

しかし、猫の半生を描いた部分は「そうこうしているうちに、一家離散。ホイちゃんはその後大好きだったとびと二度と会うことなく」と続くので、寂しさが残りました。

1篇の分量も少ないですし、書評集を期待している方には肩すかしかもしれません。

 

『読まされ図書室』というコンセプトの革新性にまず目が行きますが、薦められた本を(仕事とはいえ)素直に読める人でなくては成り立たない企画です。

さっき読んだ9月12日付の伊集院光のブログに「もはや自分が嫌いなことの中にしか発見はないのではないか?と思った。40歳まで好き勝手やってきて好きなことの延長線上にある発見はある程度予測のつくものなのではと思った。」と書いてありました。

東浩紀『弱いつながり』は「私たちは考え方も欲望も今いる環境に規定され、ネットの検索ワードさえグーグルに予測されている。それでも、たった一度の人生をかけがえのないものにしたいならば、新しい検索ワードを探すしかない。それを可能にするのが身体の移動であり、旅であり、弱いつながりだ―」という内容です。

小林聡美さんの意識も似たところにあったことが「やや長いあとがき」でわかりました。

このところ、すっかり視野の狭い生活をしている。緑内障とか肉体的な意味でなく、ひたすら自分中心の暮らしをしているという意味である。行きたいところにしか行かないし、見たいものしか見ない。それがとんでもなく傲慢で偏ったことであるのはわかっているけれど、今は、そんなときなんだろうなぁと思ってそうさせてもらっている。そして、そんなひとり鎖国みたいな生活に、いい具合にぐりぐりと食い込んできたのが、読まされ本の数々であった。

(中略)

凝り固まった自分の好みはことごとく無視され、とにかくそれまで手にとることのなかった差し入れが次々と届けられた。

 

本の雑誌」16年10月号に津田淳子さんが「装丁家10傑」を寄稿しており、丁度、単行本時の装丁について書いてありましたので引用します。

 映画関連のグラフィックデザインがメインだが、ブックデザインもすごくいいのが大島依提亜さん。『読まされ図書室』は、図書室というタイトルから、図書カードを模した目次が挟まっていたり、見返しに図書カードを入れる封筒が刷られていたりと、本に入った仕掛けが読者を楽しくさせてくれる。

 文庫版でもデザインは踏襲されています。大島依提亜さん自身が解説していましたので、引用して終わりにします。

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音楽の聴き方、2016年9月の。

2015年7月は独身で実家暮らしだったので、「再生機械は、4つ。カーステレオ、CDコンポ、ターンテーブル、ポータブルCDプレーヤーです」とブログに書きました。

2016年9月の今は、結婚したのでアパートで生活しています。

結婚した結果、音楽との関わりはどのように変化したかを記します。

現在の再生機械は2つです。カーステレオとCDプレーヤー。

ポータブルCDプレーヤーは旅行用で、ターンテーブルは実家に置いてきたので最近は針を落としていません(注文したGotchの2ndがそろそろ届くころなので、そのうち稼働させに帰ります)。

CDプレーヤーは自宅用で、VictorのNX-SA55を使っています。

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以前使っていたCDコンポと異なり、スピーカー一体型なので重宝しています。ブルートゥース搭載なのでYouTube(主に「バナナムーン」)やSoundCroud(Arcaとか)をスマホで再生し、プレーヤーで聴いています。

カーステレオは以前と変わらず、フル稼働です。

iPodを持っていないので、iTMSで購入した音源やChance The Rapper『COLORING BOOK』やDonnie Trumpet & The Social Experiment『SURF』、Rihanna『ANTI』などフリーダウンロードの音源をCD-Rに録音し、それを車のHDDにリッピングして聴いています。

通勤時間が15分くらいなので3曲くらいしか聴けないのが不満といえば不満です。

全体を見渡すと、自宅で音楽を聴く頻度が少なくなってします。生活のなかに「音楽を聴く時間」を取り込みにくくなっているのが理由です。

例として、9月1日(木)の帰宅後の時間の過ごし方を書きます。

午後6時、帰宅。帰宅後すぐに夕食。夕食を食べながら『水曜日のダウンタウン』(オンタイムで観て、翌日にもう1度見る)と『ママゴト』を視聴。

午後8時から午後9時まで「ポケモンGO」のため外出。

午後9時すぎから入浴し、午後10時半には寝室へ行き、就寝。

自宅で音楽を聴いてない理由のひとつは、「ポケモンGO」をやっているからです。自分ひとりなら夜に出かけることはしないけれど、妻と一緒にやっているから、ポケモンへの熱が冷めにくくなります。

日によって帰宅時間に差はありますが、「ポケモンGO」はだいたい1時間ほどプレイしています。

あと、プレーヤーは寝室に置いてあって、自宅では大半をダイニングルームで過ごしているので、どうしても音楽から距離ができてしまいます。

音楽漬けの生活ではありませんが、交通手段は「車」一択なので、8月にリリースされたサニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』、KIRINJI『NEO』は繰り返し聴くことができています。

最近はアルバムに収録されている曲のタイトルが覚えにくくなってきています。年齢のせいなのか、HDDにしたからなのか、歌詞カードをろくに見なくなったからなのか、シングルではなくアルバムを聴いているからなのか。

現場からは以上です。

 

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CDのジャケットデザインについてミュージシャンが語るとき

トライセラトップスのデビューから4枚目までのアルバムがリマスタリングされて再発売されました。

発売を告知しているサイトには「彼らがエピックレーベル在籍時である1998~2001年にかけて発表したオリジナル・アルバム4作が、最新リマスタリング/高品質Blu-spec CD2仕様にて復刻、8月24日にリリースされる」とあります。

価格は1枚2,000円(税別)と破格なので、4枚とも持っていますが、『A FILM ABOUT THE BLUES』だけでも購入するか考えています。

リリースにあたり、和田唱さんがジャケット・デザインについて珍しく言及していたので引用します。

 

修正前のジャケットを載せておきます。確かに和田さんの望んでいるデザインの方がすっきりとしています。

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先日(16年6月7日)公開された和田誠さんとの対談のなかで『A FILM ABOUT THE BLUES』のデザインに心残りがあることを匂わせていました。以下に引用します。

——さっき親子コラボの話が出ましたけど、今後、その可能性もありますよね。

唱:望んでる人は多いかもしれないよね。

誠:やれって言われれば、やるんだけどさ。唱たちはアルバムのジャケットって自分たちで決めてるんだよね。

唱:ちゃんとデザイナーの人がいるよ、方向性は示すけど。

誠:映画館の看板のジャケットがあるでしょ。

唱:『A FILM ABOUT THE BLUES』(99年)。本当はもうちょっとうまくやりたかったんだけど。

誠:きれいないいジャケットだよ。

唱:本当に? よかった。

 

ミュージシャンは音源については納得いかないと発売を延期することも辞さないようですが、デザインについてはレコード会社などから提案されると納得いかない部分もありつつ、マーケティングなどを理由に説明されると折れてしまいがちです。

 

意向とは少しずれてデザインされたものが流通してしまった例を思い出しました。

スーパーカー『スリーアウトチェンジ』です。

07年4月4日の「10周年記念盤」の発売に際し、いしわたり淳治さんがブログに掲載した文章を引用します。

そしてパッケージについても少し補足を。

10年前の初回盤と同じ感じのカラーケースなのですが

トリコロールの配色が当時とは大きく違っています。

というのも、実は当時、発注ミスがあって

止むを得ず間違った配色のままリリースしていたんですね。

なので、今回の10周年盤が正しい配色です。

10年の時をこえて胸のつかえがおりました。すっきり。

 

メンバーがCDジャケットのデザインをしているバンドは一ノ瀬雄太さんを擁する快速東京しか知りません。

とすれば、ほぼすべてのバンドがジャケットデザインは外部のデザイナーに委託しているはずなので、意思疎通しきれず、あとあと心残りになっている例も多く発生しているのでしょう。

ミュージシャンがジャケットデザインについて語るインタビューはほとんど読んだ覚えがないし、そもそも納得していない部分については語らないでしょう。和田唱さん、いしわたり淳治さんについても、デザインへの「胸のつかえ」がおりたから発言しているわけです。

リスナーである私は「ミュージシャンがジャケットデザインについて納得してなないんじゃないか?」と推測することはありません。なので、ミュージシャンがどの程度デザインの方向性を示しているのか、そんなことを知る機会があれば音楽の楽しみも広がるのではと期待しています。

CDのパッケージ・デザインを語ってくれ

 「CDのパッケージを包むビニールを剥がし、ブックレットを手に取り、ディスクを取り出し、プレーヤーにセットし、再生ボタンを押す」

 私が音楽を聴くまでに辿る手順です。

 iTunesで音源を購入することもありますが、大半はこの手順であり、「Youtubeの画面をクリックして、再生する」という手順を踏むことはほとんどありません。

 そういう習慣を持つので、CDのパッケージには愛着があります。

 

 惣田紗希さんがアート・ディレクションを行った、ザ・なつやすみバンド『PHANTASIA』。

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 そのパッケージ・デザインは『PHANTASIA』の音源から放たれるキラキラ感を増幅させるものでした。

 このことは二次元の画面から伝わるのでしょうか?

 音楽を扱うメディアは、もっとパッケージについて言及するなり、紹介してほしいと考えます。

 音だけほしいなら、聞ければいいだけならストリーミングで足りるわけであって、パッケージ化されてフィジカルリリースされているのだから、そのことについても私は知りたいのです。

 既存のメディアによる新譜のリリースについてのインタビューでパッケージについて触れていないのは、インタヴューアーが音源だけもらってインタビューに臨んでいるからです。

 「どこよりも早く聴いた」が雑誌の表紙に踊り、「宇宙最速オンエア」がラジオで強調されています。

 フィジカルの完成を待っていたらリリース間近になり、取材~編集~印刷~流通という仮定を経ていたらCDの発売から雑誌の刊行まで日数が開いてしまうからでしょう。

 リリースとは関係なく、CDのパッケージと音楽との関係について深く掘り下げてくれる雑誌なりウェブなりのメディアが欲しいと考えています。現状、パッケージについては『ブレーン』『アイデア』『Mdn』とかデザイン雑誌がデザイナー寄りでちょこっと触れてるだけです。

 サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』に対して「名盤」「傑作」という評は目にしますが、ジャケット・イラストレーションは永井博さんで、ジャケット・デザインは小田島等さんであるということについては全く語られていません。

 パッケージ・デザインが誰であるかを伝えてくれれば、買う予定でなかったCDを買うこともあります。

 実際、CINRAの「祖父江慎と佐内正史が語る、黒猫チェルシーに施した「治療」」という鼎談を読み、黒猫チェルシー『グッドバイ』を購入しました。その後にリリースされた『青のララバイ』はまだ買ってませんが、そのうち買うかもしれません。

 CINRAの鼎談を読むと、アートディレクションがアーティストの勢いを加速されることがわかります。

 物としてのCDや書籍について語らないと、iTunesやサブスクの方が価格が安く済むからそれで良いということになってしまいます。

 物としてのCDには音源データに何が上乗せされているのか?

 プラケースに16ページのブックレットが挟まっているだけのものもあるかもしれないけれど、趣向を凝らしたパッケージもたくさんあります。

 CDジャケット大賞というものもありますが、これについてはCDジャケットに主眼があり、パッケージを評価しているとは言えないような気がしています。

 順位付けの方法は「投票」であるようですが、itunesや雑誌の新譜紹介などで観れる小さい写真だけの評価なんじゃないのか、という疑念があります。ウェブサイトに「実際に見て評価できます」とあるけれど、手にとれるわけではなく掲示板に貼りついたのを見るだけのようです。

 2016年は星野源『YELLOW DANCER』が受賞していました。

 しかし、パッケージを含めたデザインという観点が与えられれば、候補50作品に入っている、CORNELIUS『Constellations Of Music』が選ばれるべきです。

 

 音楽とデザイン。私の願望を満たしてくれるメディアの登場を切望いたします。

ウェブメディアへの支援の仕方がわからない

 ウェブメディアが収益をあげる方法については、唐木元さんがナタリー在籍時のインタビューで答えています。

 ナタリーの場合、収入源は「広告」と「記事配信」の2つが主要で、「広告」は「バナー」と「タイアップ」に分けられるそうです。

 「バナー」は大概どのサイトにも載っている、クリックしたらその製品のサイトに移行するタイプのもの。ナタリーやヤフー、Real Soundには載っていますが、RO69やthe sign magazineには載っていません。

 「タイアップ」は広告であることがすぐには分かりません。広告と見なされると興味を持たれないため、普通の記事と同化するように工夫されています。例えばコミックナタリーで東村アキコさんがアルバイト経験について語ったのはナタリー独自の記事に見せかけたアルバイト情報誌「an」のタイアップ広告でした。

 「記事配信」というのは他者への記事販売のことです。ヤフートピックスにナタリーやリアルサウンド映画部の記事が掲載されるのは、このためです。

  ウェブメディアの収益構造が理解できたので、ついつい甘えてしまいますが、読者である私がウェブメディアから恩恵を受けたときに対価を支払っていません。

 閲覧することでページビューが増え、広告収入の増加につながる。それは分かるのですが、もっと直接的に支援することはできないのでしょうか?

 出版社の運営するサイトを支援したければ刊行物を購入すればいいのですが、ウェブのみで活動する場合、代わりになるものが思い当りません。

 

 ということを考え始めたのが2015年8月ころ。

 昨年のフジロック中に「Real Sound 映画部」のローンチが発表され、定期的にアクセスするうちに幾ばくかでも対価を支払う必要があるのではないかと思いだして1年が過ぎてしまいましたが、現状なにも思いつきません。

  最近も、サインマガジンの「1組もハズレなし! すべてのアクトが超一流。2016年夏にフェスに行くなら、ホステス・クラブ・オールナイターだけで十分という話」「東京インディが離散した2015年。そして、世代交代が進む2016年、シャムキャッツが夏のラヴ・ソング“マイガール”を世に問う」の記事を続けて読んだ後にも、この記事にも読んだ対価を支払うべきだと考えましたが、現状なにも思いつきません。

  ナタリーを見ても「対価を!」とはならないのですが、「Real Sound 映画部」「the sign magazine」には何らかの対価を支払うべきだと考えております。

  音楽関係のサイトに限った話をしていると思われるでしょうが、私が日常的にアクセスするサイトは、あとは「Web本の雑誌」くらいです。『本の雑誌』は定期購読しているので「対価を!」とは思っていません。

  雑誌は制作費が高い割に売れないし、1ヶ月に1度発行というスパンでは情報が古くなってしまうからということでWebメディアを手段として選んでいるのでしょう。雑誌を発行して欲しいとは言わないけれど、年に1度くらいは年鑑として記事をまとめたものを発行いただけるとありがたいです。