「初恋の悪魔」
「家庭教師のトラコ」とは、「家庭教師はトラコ」あるいは「トラコは家庭教師」となる。
「痴人の愛」とは、「痴人の持つ愛」となる。
「明日の天気」とは、「明日1日を通しての天気」となる。
「水曜日のダウンタウン」とは、「水曜日に放送されるダウンタウンの番組」となる。
言語学を学んだことがないので、適当な推察しか書いていないことをお断りしたい。
そして、「初恋の悪魔」。
全編を見終えると「初恋は悪魔的な力を持つ」という意味なのかと感じ、「初恋」についてのドラマだったのかと思う。
CHE.R.RY / YUI
恋しちゃったんだ たぶん
気づいてないでしょう?
星の夜 願い込めて cherry
指先で送る君へのメッセージ
劇中で「CHE.R.RY」がカラオケで歌われるように「恋のはじまり」が描かれます。それだけにとどまらず「恋愛関係の喪失」も描かれます。
最初は馬淵悠日(中野大賀)と摘木星砂(松岡茉優)の恋が描かれます。
物語の序盤にはオープン・マリッジな関係を求められて別れてしまうものの、結婚を考えていた彼女(山谷花純)が出てきます。しかし、別れても落ち込んだ様子はありません。
鹿浜の家での捜査会議終わりで食事に行く流れになり、徐々に星砂との距離を近づけていきます。星砂の人格Bが出てきたことで星砂と物理的な距離ができ、手紙を読んで泣くほどに星砂の存在は大きくなっていることがわかります。
タイトルで示唆される「初恋」が誰のものかといえば、鹿浜のものなのでしょう。
「恋しちゃった」ことに今まで気づけずにいた鹿浜は、星砂についても恋に気づけず「殺したい」と錯覚していました。悠日と星砂の距離が近づいたことを悟り、身を引きますが東京で人格Bの星砂と会い、距離を近づけていきます。
星砂の人格Bが消え、鹿浜の初恋も終わります。
失恋の痛みはいつ解消されるのか?について深追いしながらした質問への小鳥琉夏(柄本佑/もっと出番が多くても良かった)からの回答を理解していることでしょう。
物語の最後では半ば押し切られる形で「自宅捜査会議」が再開されます。カラオケで「CHE.R.RY」を歌っていた場面は大人の友情を描いた屈指の名場面であり、その友情関係が戻り、安堵するエンディングでした。
あと、二重人格の人がそれぞれの人格で恋をするというのは新しい手法だけれどもズルいなと感じました。
三角関係には真ん中に立つ人の揺れ動きがあり、視聴者としては「そっち行くの?」という悶えがつきものですが、二重人格を理由にされるとどうしようもないわけで、その辺の悶えが少ないというか、まったく無いドラマでした。
星砂のことは嫌いになりもしないが、突出して魅力的かといえば、そうでもないような。
男3人と交じる「女友達」としての人物造形は満点ですし、もちろん、松岡茉優さんの演じ分けは素晴らしかったので、少し物足りない気持ちにもなりました。
今さら言うことでもないですが、坂本裕二さんのドラマは言葉が面白いです。
「わかります。わからないけど、わかります」「言われなくても疲れてるよ」などの口癖からはじまり、「万引きは犯罪ではありません」「なに所ジョージなんだよ」などの笑ってしまうセリフや、「犯罪の主役は犯人だけじゃない。犯人も刑事も被害者も平等に主役でなければならないんだ」(4話)という芯をくったセリフ。
「あなたのブツが、ここに」には、ひねったセリフはなく、普通の人の言葉であることのリアリティがあり、現実との地続き感がありました。
「初恋の悪魔」にはセリフを含めて世界をイチから構築していく凄さがありました。
どちらも良いドラマであったという結論です。