樋口毅宏「無法の世界 Dear Mom,Fuck You」

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樋口毅宏の発禁後第一作「無法の世界」を読む。
正確には『中野正彦の昭和九十年』が出版社イースト・プレスの担当とは異なる編集者にイチャモンをつけられて回収に追い込まれた後の第一作。

本作は本作で江口寿史がなかなか装画を仕上げてくれず、やきもきする様をツイッター(現X)に公開していました。このことについては雑誌「フリースタイル」にも寄稿しているらしいので、あとでチェックします。

私は樋口毅宏作品を買うけど、読まないタイプの読者です。デビュー作「さらば雑司ヶ谷」のころから何作も買っているけれど、読み通したのは「ドルフィンソング」と「タモリ論」とコラム集くらい。
そんな私は本作「無法の世界」をどう読んだのか?

年間ベストに入る作品ではないけれど、本棚に残り続ける作品であると感じました。
また、樋口毅宏は日本の出版界にとって必要な作家であるとも。樋口毅宏のいない出版界は窮屈だし、文芸界を拡張する作家が樋口毅宏です。

近未来を設定にしながらも、「ツイッター」とか「Clubhouse」とか「お台場の観覧車」とか既に名称が変更されたり、だれも使わなくなったり、撤去されたりしているものはありますが、パラレルワールドの先の近未来ということで、そこには目を瞑ります。

樋口毅宏は作品を通して何かを訴えたい作家ではなく、頭に浮かんだものを作品として出している作家だと思うので、ストーリーはあってないようなもの。

気候変動が進行した近未来の日本で、久佐葉イツキが同性パートナーと少年と一緒に故郷へ向かおうとするロード・ノベル。
「エロ&バイオレンス」の要素もあるので嫌悪感を抱く読者もいるだろうけど、私的にはエロはもっとゆっくりしっとり書いて欲しかったし、バイオレンスは痛みを想起させなかったので物足りなさがありました。

樋口毅宏作品には「引用、影響、パスティーシュ、オマージュなど」があるようです。
今回の作品で気づけたのは、以下の2ヶ所。

女優を妻に持つコピーライターが遠回しに援護ツイートした。
“おくにのわるぐちをいうひとはきっとバチがあたるんだろうなあ”

「聞いたことがないか。東京ドームの下に地下闘技場があって、そこで現役の金メダリストや横綱やボクシングのヘビー級チャンピオンが禁断の対決をしていると。東京ドームは隠れ蓑なのだ」

樋口毅宏作品が本棚に残り続ける作品である理由は物としての趣向が凝らされていること。
「無法の世界」の装画は江口寿史でしたが、過去には柳沢きみお岡崎京子を起用しており、読み終わってもメルカリメルカリということにはなりません。

 

リアリティはないけれど、読者を引き込む力はある。

樋口毅宏作品について書けるのは今のところこのくらい。

あと、「中野正彦の昭和九十二年」(メルカリの最安値は6,980円)が改めて刊行されることを期待しています。